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【食】在りし日の焼きビビンバのこと
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店はあるのに、いまでは食べられないひと皿。店自体がなくなるより、それは、ずっといいことなんだけど、行くたびに、そうだよな、ないんだよな、と、メニューを一応、ナナメ読みする。
川崎駅からかつての川崎球場手前を右に曲がり、渡田に行くと、その店、龍苑はある。
「何を食べても旨い」がほめ言葉なら、この店は百人が百人別々に、自分の好きなひと皿がきっとある。たとえば、それでも、牛タンだけは外せない。と、言っても、やはり、それはわたしの主観でしかないだろうな、と、龍苑を知っていればこそ、そう思う。
そんな「何を食べても旨い」店で、もう、いまはやっていないのが、焼きビビンバ。ん?って思ったひと、石焼ではないの、焼きビビンバ。いうなれば、ビビンバチャーハン。これが、旨い。いや、残念なことに旨かった。最後に食べたのは、もう、15年ぐらい前かもしれない。その時は、すでにメニューから外されたものを、あぁ、いま、つくれるって。と、つくってもらった。そのあとは、もう、すっかり、いまやってないんだよね。に、変わってしまい、頼んでいない。
そんな、焼きビビンバを、記憶をたよりにつくってみると、材料がありあわせの割には、うん、そうそう。ってぐらいにはなった。コチュジャンの甘さと、胡麻油のコクをぎりぎりまで攻めると、どうにか近いものになった。が、当然、それではない。
川崎から渡田方面にクルマを走らせ、渡田の交差点から南武線のアンダーパス、の、その手前。ああ、きょうも龍苑は大繁盛だ。と、もくもく上がる煙を見て思うのは、牛タンでもなく、ハラミでもなく、魚のチゲでもなく、あのオモニの、焼きビビンバのことだ。
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