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XVII. Tokyo Sanjin

熱ある活きた街であるかのように振る舞いながら、
ところどころ、冷たく固まった土地の一角は水分を失い
底のない地下の闇へと崩れ落ちていく
その虚しさはパッチワークの建造物の狭間にあって隠しきれない
どれほどの崖をコンクリートで覆おうとも、消せない土地の匂い
ゆっくりと踏みしめながら地上に漂う意識を読んでいく

この都市が地球上で極めて特殊な場となったことを意識していたい

世界中、ほかのどんな都市とも似ていない

まだ見ぬ若き夢の全てを託しながら訪れた民は
今、飽き厭きした退屈さに浸っている

強大な官憲の中心であり経済の駆動軸でありながら、
その実、軽薄で中身のない稚拙なまやかしばかりが罷り通る街

過去に固執した脂臭い欲が臭う
冷静でクールな活きた創造力は人類史上かつてなかった極上のレクイエムとして結実する

一刻も早く遠く離れたい
しかし、離れられる術など思いつかない

作り笑いで来るもの拒まず、そして容易に受け入れず、
見透かせない透明度の高い強固なバリア
アンビバレントな都市

東京劣化
それは平成最後の今日の事でありながら、明治から全く同じことを嘆く文人の言葉を本に読むことができる
止まること無く、いつでも無限に落ちていく途中

愛憎尽きない
滅びよ、歪な怪物
その運命は明らかだ
途端、刹那の輝きが失われることへの哀惜
GODZILLAが倒れる際の都民の集団意識は、勝利の喜びなどではなかった
親なる拠り所を失う悲哀がより大きな渦を巻き、この都市を悼んだ
異形の爬虫類突然変異体は都市、その生命体の体現でしかなかった 

この都市は我々そのもの

ヘリコプター サイレン 街宣車 発車を知らせる電子音が溢れる 
埃と油がつくり出す、灰色の代謝物の堆積

書割でできたお台場の地下には底無しの穴がある

水平線の前の広大なコンクリートの広がり 小さなブルドーザーはその土地に積まれたゴミの山を瞬く間に穴へと掃き落とす 

そして何もなかったかのようになる 何もなかったことにする

この街は何を摂って生きているのだろう
人は運ばれ都市体内を巡り、その組織細胞としての役割を果たす
用をなさなくなれば、自己消化、排泄されるのみ

この街は何に守られているのだろう
強かに生き続けるそのエネルギーの源はなんなのだろう

港区の246沿い 途切れない商業ビルの壁
白い鉄板が覆い一目から遮る、建物が取り除かれ整地された土地
灰色の街の片隅、鉄板の隙間から、広大な空き地を見た
そこだけに開いた青い空 
零れ種から芽吹いた椿の芽
何処から紛れたのか捩花が咲いている
葉に隠れた菫の蕾
揺れるポピーの群生
バッタや蝶が生を謳歌する

この街に暮らし、奇跡のような土地の浄化の瞬間に立ち会うべく
今日も細い路地の曲道へと足を進める



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