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寒さが記憶に残る夜。氷点下の恐怖。
猛烈な寒さで記憶に残る夜は今のところ三夜ある。モロッコのサハラ砂漠のど真ん中でキャンプをした夜(世界一周旅行)。パタゴニアの山の中でキャンプをした夜(会社の研修旅行)。そして牛とともに暮らす酪農家さんの取材でまだまだ寒い春の牧場でキャンプした雨の日の夜(フリーのお仕事)。・・・どれもキャンプだ。
私たち夫婦はいわゆる古民家に住んでいる。木造、築年数不明の平屋。おそらく100年たつか、たたないかくらいの家なのではと推測している。
昔から古民家暮らしに憧れがあった。なぜだかあまり思い出せないが、古い家を丁寧に住み継ぎながら、便利とは真逆の手のかかる生活をしてみたいと思っていた。
結果いい家との出会いがあり、夫とともに念願の古民家生活が始まった。今年で3年目。季節の巡りをぐるりと2周分体験し、1年目の発見や失敗を2年目、3年目と徐々に心の余裕を持って楽しめるようになった。
古民家暮らしのいい面は、儘を楽しめること。新建材と言われるものがほとんど使われておらず、素材は大方自然由来。素朴でいい。
無垢の床板、木枠の窓、雨戸も木。風呂場の床は石で、壁も土や砂。湿気が多ければ床はペタペタするし、冬になれば木が縮むし反り返る。晴れれば太陽の香りで、時には雨の香りで家が充満する。
素材そのもので家が成るからこそ、自然や四季の巡りをダイレクトに感じられる日々。ちゃんと季節の匂いがある。発見に満ちていて興味深い日々だ。
この家に住んでいると、家も自然もそのままで、人だってそのままでいいじゃないかと、余計に着飾る意味が薄れていく気がする。いいのか悪いのか。
一方で、古民家暮らしはいいことばかりではない。とびきり大変なのは寒さだ。堂々と侵入してくる隙間風に、時折ここは屋外かと勘違いしそうになる。断熱材とやらがない。床の下はきっとすぐに地面。そんな家の中では、冬の間、冷蔵庫かしらと思うほどの冷気で充満する。本当に寒い。
おかげで、極寒の家で快適に過ごすための服、というか装備が増えた。1年目は寒すぎて暮らせないかと思った。そんな日々を超えて、3年目の今年は準備は万端。今年はついに新しい装備を買い足さなくてもほどよく過ごせそうだと思っていた矢先のこと。今日ついに新しい装備を増やしてしまった。
あたたかいと噂の羽毛布団。なんせ今夜は大寒波。氷点下になるという。あわてて羽毛布団を探しにでかけ、ついに手に入れた。毛布、羽毛布団、掛け布団。この三重装備で眠りにつく予定。
今にも屋根が飛んでいきそうなくらい、北風がビュービュー吹き、すでに家が揺れている。今夜が冬のキャンプのような寒さにならないことを祈っている。記憶に残らないことを祈っている。一応屋根のある屋外だしキャンプではないのだからきっと大丈夫。我々には羽毛布団があるからきっと大丈夫。そう信じている。