父の幕引き 20 サヨナラの涙
鼻の奥がツーンとしたのは
食卓を拭いている時だった
最後は一人で泊まった父の家
だいたいの片付けを済ませ
あとは遺品整理の業者さんに任せるだけ
食卓を布巾で拭いて
コーヒーを飲もうとしていた
布巾を手に食卓と向かいあった時
不覚にも涙が溢れた
私が中学生に上がる時に
団地から一軒家に引っ越しした
座卓からダイニングテーブルになった
画期的な変更だった
あれから33年
母も父もずっとここで食事をしてきた
父もいつもここに座っていた
もう二度とここには来ない
この食卓ともお別れの快晴の朝だった
窓から差し込む光が
梅雨と思えない眩しさだった
使い込まれていい色になった天板を撫でた
ヒンヤリして
しっかり年季が入った木の天板を
感謝を込めてしっかり拭いた
台所へ向かう母の背中がみえる
父が新聞をめくる音が聞こえる
しばらく涙は止まらなかった
みなしごになった
※父の幕引き はこれにておしまい
3話くらいのつもりが、
20話まで育ってしまった。