定食

奥の机が焦茶色に移っている。飲み口はその模様を正確に写さない。
ただ、歪めているのだ。世界にある光をくぼみの様な何かで。または冷たい光の粒達で。
日のささない窓辺に飾られた観葉植物は窓に目一杯葉をむけてひたすら光を食べている。
遠くで爺さんが「ラーメン1つ」と言うのを聞いて僕はここにきた訳を1つ思い出した。ただ僕はもう既に間違え戻る事は出来ない。曲げられてしまった光の様に。
ふと見やると時計はキャベツが溶けたような顔をしていた。きっと昔は白粉を叩いた美人だったのだろうが、今ではみる影もない。
ただ、その針だけは変わらないような気がする。ずっとあのまま、青春の時間から止まってしまって、ここだけ世界から切り離されてしまっているのだろうか。
奥でせっせと動く旦那の趣味とは思えない漫画や飾りがそんな気を起こさせるのだろうか。
水は飲み切っていた。
ザク、ザクと大根の浅漬けを轟かせる。更には葱の臭いも立ち込める。
気がつくと僕だけになっていた。
不安に駆られた。「お勘定おねがいします」と叫んだ。
すると、仕切りになっている暖簾を分けて、和かに「ありがとうございます」と奥さんが出てきてくれた。
水はまだ、光を歪め続けていた。

いいなと思ったら応援しよう!