旅先の道路案内標識をみた時みたいな気持ちがした。妙に晴れやかな空のせいだろうか。
現代建築が建ち並ぶこの市の駅前は車の往来が途切れぬ代わりに学生と萎びれた大人以外の姿はない。
図書館は休みだった。迷った挙句家を出たのに期限間近のこの本を返せない。思いもよらない事でも無いが、思いもよらなかった。
さて、どうするか。
青い自動ドアに写る僕が太陽光のせいでやけに白い。服が黒いせいだろうか。
スローモーションの様に自分の顔が歪むのをみていると、少し雨が降ってきたどうやら雨粒が流れてきたみたいだ。
ただ、流れてくるだろう雲は果てし無く遠く、到底辿り着けそうには見えない。
「はて」
そう呟いて少し歩く気になったので、考えを巡らせながら足を前へ前へ運んでみる。
服についた、雨のしみを眺めて
「どこから来たんだい?」
と、聞いてみる。
「君を目指して遠くから」と言っている気がしたが、そんな訳はない。
「じゃあ、誰のものなんだい」
と聞いてみる。
「誰か大切な人のもの」
そんなものがあっただろうか。
気がついた時には踏み潰してしまった蟻に謝った。
「ごめんよ」
僕は悪くないんだよと、言い聞かせる様に。
遠くから来た雨粒が誰かの涙である様な気がして、呼吸を深く、深く、深くまで。
そんな訳ないだろと、言い聞かせる様に。