わたしのこと。ー序章ー
〝わたし〟の自伝を書いてもらうなら、佐久間さんしかいないと思いたち2016年にお願いをした。佐久間さんは快く引き受けてくれて、とても素敵な文章が2017年に出来上がり手元に届いた。その文章をここで少しずつ掲載しつつ、その時のことや取材してもらわなかったエピソードを追記していこうと思う。これは、とりあえずの〝わたし〟の備忘録。
序章
“幸福の県”と“幸”の成り立ち
時は2016年。
気持ちのいい青空が一面に広がっている。千曲川に抱かれた長野県の松代町。信州の緑に囲まれたこの町は、NHK大河ドラマ『真田丸』の大ヒットで、多くの注目を集めることになった。
堺雅人が演じた『真田丸』の主人公、真田幸村は、有名な戦国武将であり、誰もが一度はその名を耳にしたことがあるはず。幸村の兄で、大河では大泉洋が演じた真田信之が初代藩主として治めたのが、この松代だ。以来、真田家十代の城下町として栄えた。
そんな松代の町には今も真田家の家紋である「六文銭」がいたるところに描かれていて、松代城(海津城)に向かう道中では幾度となく目にすることができる。国指定史跡である、松代城、真田邸、文武学校などが建ち並び、どことなく時代の香りを残すその街並みは、訪れる歴史マニアの心をくすぐるものなのだろう。
この『真田丸』で歴史の町として一気に注目を集めることになった長野県だが、もともと魅力的な地として一目置かれている。
長野県は群馬・埼玉・山梨・静岡・愛知・岐阜・富山・新潟と、8つの県と接し、日本でもっとも多くの都道府県と隣接する県であり、北海道、岩手県、福島県につぐ大きさを誇る。1万3600k㎡の面積のうち、約20パーセントが自然公園に指定されていて、全国最多29の百名山があり、「日本の屋根」と呼ばれている。さらに森林セラピーに認定を受けた場所が9カ所もあり、全国に誇れる森林セラピーのメッカとしても有名だ。こうした豊かな自然から眺める夜の星空は絶景で、「星のパワースポット」と称されるくらいの美しさである。
豊かな自然とともに穏やかに流れる時間……。2013年には全国幸福度ランキングで1位に輝き、男女ともに平均寿命も全国1位。長野は“幸福の県”なのだ。
◇ ◇ ◇
「幸」
幸運を表すこの言葉には、幸運以外にも「かわいがる」、「大切にする」、という意味も含まれていて、海や山からの産物という意味の「さち」としても使われる。
実はその語源はあまりポジティブなものではない。もともと「幸」は両手にはめる処罰の道具である「手かせ」の象形だった。これを両手にはめた形の漢字が「執」(とらえる)。「丸」の元の形は「丮(けき)」というもので、両手を「幸」=手かせに差し出している形を意味している。
「倖」という文字は「亻」=人と「幸」=手かせの象形。そこから幸いにも人が手かせをはめられるのを逃れたことを意味する「幸」という漢字が生まれた。つまり「幸」という字は何か幸運を得たという意味ではなく、難を免れたという意味での幸運を指したものだったのだ。
「幸」という字は語源だけでなく、文字の形も面白い。もしも一つ線が足りなければ、「辛い」というまったく逆の意味になってしまう。幸せは何か一つが欠けただけで、それが辛さに変わる恐れもあるのだ。
逆の考え方もできる。「辛い」時、何か一つ状況が変わるだけで、「幸せ」になることもあるということ。一つの言葉、一つの出会い、一つの出来事……何が人生を変えるかなんて誰にもわからない。幸せの形は人それぞれだから、みんな自分なりの幸せを求めて生きているのかもしれない。
ちょうど、取材をお願いした頃NHK大河ドラマで『真田丸』が放送されている頃で、舞台である地元の松代も盛り上がっていた。歴史博物館や松代城(海津城)などを案内して〝わたし〟が育った環境を案内して、松代城の近くに長野では有名な竹風堂というお店でお昼を食べながら〝わたし〟の両親にも取材をしていただきました。
佐久間さん(佐久間一彦)
1975年生まれ、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年〜2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。
(webマガジン VITUP! 〝佐久間編集長コラム〟プロフィール引用 )