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「偶然」と豆

生きていると偶然なことがあるものだ。今からちょうど6年前、私は会社の飲み会のあと、一人クールダウンするため、とあるバーで飲んでいた。たまたま隣に座っていたの女性に急に話しかけられた。相当酔っている。見た目は私より少し年上。彼女は唐突に「あなたピーナッツって好き?」と、彼女は日本語だったが、明らかに外国語の訛りが入っていた。彼女は続けて「ピーナッツはもともと家畜の餌か、黒人奴隷向けの食糧だったの、でも南北戦争のときに食糧事情が悪くなって、白人たちも、しかたなくピーナッツを食べるようになったの、今では世界中のみんなに愛されているわ。」彼女は私に話をさせる隙もなく、更に続けて「明日、そのアメリカに一度行って、その後、韓国に戻るの。日本はいい国だったわ。」そう早口で話し、会計を終え、店から出て行った。何が起きたの理解できないまま、私も2杯目のジェイムソンハイボールを空にし、会計をしようとマスターに聞くと、先ほどの女性が会計を済ませているとのこと。連絡先も名前も聞かなかったので、お礼もできなかったことを悔やんだ。それから数日が経ち、テレビを観ていると、どこかでみたような女性が映っていた。ナッツを袋に入れたまま提供したところ激怒し、飛行機の出航を遅延させるという事件を起こした、大韓航空副社長趙顕娥(チョ・ヒョナ)氏だった。俗に言う“ナッツ姫”。あの夜、捲し立てるようにピーナッツについて語っていたあの表情、間違いない、彼女だった。あまりの偶然に少し怖くなった。ただ気になるのが、その時のCAが彼女に渡したナッツは“マカダミアナッツ”だったこと。もし、あの時渡したナッツが “ピーナッツ”だったら・・・。彼女はもっと、みんなに愛されたかったのかもしれない。そう思いながら今日もピーナッツを食べながら、一献傾けている。

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