キャビンアテンダント物語 (1分小説)
《2019年》
「キャビンアテンダント物語」は、35年前に作られたテレビドラマ。当時は「スチュワーデス物語」という題で、全国放送された。
ひとりの新人客室乗務員が、仕事や恋愛を通じて成長してゆく、ヒューマンストーリー。
だが。
フィルム内に、女性差別語である「スチュワーデス」が、ふんだんに使われているため、再放送時には、セリフに音声処理が入る。
「お客様に愛される、【 ピー 】になります!」
「あなたに【 ピー 】は、ムリよ。【 ピー 】の仕事は大変なんだから」
俳優たちは、確実に「スチュワーデス」と言っているのだが、【ピー】という音で消されるのだ。
「ここまで、自主規制する必要ある?題名まで変わっちゃって」
テレビを見ていたお母さんは、不満気。
お母さんは、キャビンアテンダントのことを、今だに、スチュワーデス、スッチーと呼ぶ。
私は、そのつど「家の外では言わないで」と念押し。
おじいちゃんが、割り込んできた。
「ワシらの時代は、エアホステスと呼んでいたんだがな」
エアホステス!?
お母さんやおじいちゃんは、平気な顔で女性差別語を使う。
看護婦、保母さん、女医、ウエートレス、聞いているほうがヒヤヒヤ。
でも、本人たちに、女性たちを傷つけているという自覚はない。
「どうして、エアホステスが女性差別なんだ?その発想こそ、銀座で働くホステスさんに失礼じゃないか。
まるで、言葉狩りだな」
《20年後》
「キャビンアテンダント物語」は、今、完全無声ドラマになって、再再再再放送中。
字幕で、すべて、時代に合った表現に変えられている。
ドラマを見ていた、中1の息子が言った。
「アナタの時代のドラマ、おもしろいね」
息子は、私のことを、お母さんやママとは呼ばない。
ママ、お母さん、お母ちゃん、お母様、おかん、オフクロは、子供を生むことを想定した、女性差別語である。
親も子供も、職場や学校で徹底した教育を受け、使った者は厳しく処罰される。
私は、今頃になって、おじいちゃんの「言葉狩り」の意味が、理解できるようになってきた。
「アナタじゃなく、お母さんって呼んでくれない?子供を生まない女性は、そこまでの言葉の規制を、望んでいないと思うわ」
本音を言ってみる。
「シーッ!そんなこと、外で言ったら懲罰刑だよ。自分は、まだ未成年だから『目線 黒塗りの刑』で済むけど」
私は、ちょっと、からかいたくなってきた。
「ああ、あの、ニュース番組で、よく見かける『少女A』みたいなやつ?」
息子は、間髪入れずに答えた。
「それも、女性差別語だ!」