豆腐屋の3代目
妻に頼まれて豆腐を買いに行った。
もう、とうに閉店をしたのかと思っていたら、昨年から店頭での販売を始められたらしい。
正確には、はじめたので無く再開である。
先代の頃には、よくお使いに行かされたお店である。
10年以上前から、店の玄関口がいつも閉まっていたから閉店をしたかと思っていたら、卸売り専門で営業をしていた様で、昨年からまた店頭販売をしはじめたそうだ。
まだ、小学生だった頃にはとうふ屋の他に、肉屋、魚屋、八百屋、煙草屋、お菓子屋、銭湯などが、徒歩で5分とかからない範囲にあって、どのお店も顔なじみであった。
まるで、ちびまる子ちゃんに出てくるお店にリアルでお使いに行かれていたのだ。
とうふ屋は、ボウルを持ってお店に行くと、半分ほど水を入れそこに豆腐を一丁入れてくれ、その水をこぼさないようにゆっくりと歩いて帰ったものだ。
蓋の代わりに、半透明の紙のような物を乗せてくれて、水で貼り付くので風で飛ぶような事は無かった。
おそらく、木綿豆腐だったと思うが、今よりも1丁が大きくて表面の布目がしっかりとしていた。
店内で油揚げを揚げていたので、タイミングによっては油揚げの匂いが、かなり先でもわかる程だった。
時々、切れっ端や少し形の崩れた物をおまけしてくれたりした。
今では、すでにパックに入っていて、大きさもスーパーで売っている大きさであったが、とても懐かしかった。
あの頃は、今みたいにいろいろとうるさいことも無く、それはおおらかな物だった。
魚屋に冷蔵庫は無く、氷の入ったガラスケースに魚が並べられ、店頭のカウンターで店主が捌いたり刺身にしてくれていた。
それを、経木に乗せてから緑色の紙(グリーンパーチと言うらしい)で包んでくれたり、時には新聞紙に包んでくれていた。
今みたいに、ラップや袋に入れてくれる様な事が無いから、早く家に持ち帰らないと水分が染みてきたり、傷みもしてしまう。
夏は、蝿が飛んでいるし、おろした魚のゴミなどの臭いが酷かったが、今思えばよい思い出であるし、梱包の事を考えればとてもエコである。
プラスチックゴミは無く、輪ゴム1,2本だけで、経木も紙も無害に燃える物だ。
肉屋も、小さな頃は経木だったがワックスペーパーの様な紙に包んでからビニールチューブを潜らせ熱で圧着して販売をしてくれた。
高級なお肉は経木で包まれたり、トレーに乗せられる事もあった。
脇に、ラードやもみじおろしのような薬味を添えてくれたり、なぜかスープ用にか骨やぶつ切りを入れてくれた覚えもある。
店の奥の冷蔵庫には、大きな肉の塊が吊されていて、時折それが見えるのが楽しみだった。
また、まぜか肉屋さんにはカレー粉を買いに行かされた。
少し不気味なピエロのようなコックさんのイラストが描かれた、袋に入った粉末カレー粉だ。
しばらくすると、外人男の子の写真に変わったが、少し怖かったような気がする。
八百屋では、ダンボール箱や山積みになっている物を、店頭に吊された計りで重さを計って売っており、商品は新聞紙で包まれたり、新聞紙で作った袋にいれられ、自宅から持っていった買い物カゴに入れてきた。
包みには、マジックで大きく値段を書き、それを店頭に吊されたザルにあるお金で精算してくれる、スタイルだった。
一番のどかだったのは、どの店も子供のお使いの時は、つけ払いが当たり前で、次に親と行った時に一緒に支払いをするのが慣例だった。
今では、とても考えられないくらいのどかな物で、賞味期限も消費期限も気にせず、包み方もエコで買物カゴは当たりまえ、お金の尊さ重みを、握りしめてた手や肌で感じていた。
それが良いのか悪いかはわからないが、豆腐屋の3代目のおかげ、いろいろな事を思いだし、考えさせられた。
ガンバレ 3代目!