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祖母のムーンウォーク
そういえばな、おばあちゃん、ムーンウォークできるんやで!
そう、それは北京オリンピックのフィギュアスケートのエキシビションを
祖母と一緒に見ていた時のことだった。
フィギュアスケートが大好きで、特に羽生結弦選手がお気に入りな祖母。
本番の試合はドキドキしてしまって生中継だと見られないそうで、
唯一リアルタイムで見られるのがエキシビションである。
せっかくなので、祖母に内緒で買ったスケート雑誌を手土産に
母と私も祖母の家に行って一緒に見ることにした。
事件が起きたのは、宇野昌磨選手の出番がやってきた時のこと。
曲はマイケルジャクソンメドレー。
おお、かっこいいね!と盛り上がる。
と、ここで、冒頭の祖母のセリフである。
ムーンウォーク????????
目の前の祖母とムーンウォークが結びつかず困惑するわたしに
ちょっと見てて、と得意げに立ち上がり、真剣な表情の祖母。
いや待って、宇野選手これから滑るんだから待って!という私の声は
もはや彼女には聞こえていない。ON STAGE!
そして動き始める、のだが。
なんだろう、この違和感と既視感が混ざり合った感じ。
ダンスに関してはど素人なので怒られるのを承知で言うが
足元の感じはなんとなくムーンウォークっぽい。
決して大きく外れているわけではなさそうだ。
うーむ、これは何だろう。と
ムーンウォークに勤しむ祖母を眺めていて、はたと気づいた。
手だ。
手のフォームが限りなくどじょうすくいに近いのだ。
どじょうすくい風味のムーンウォーク。
見れば見るほどじわじわと笑いが込み上げてくる。
な、上手やろ?通っている体操教室の先生に聞いたら教えてくれた!
聞く方も聞く方だが、教える方も教える方だ。
なんてことを85歳のおばあちゃんに仕込んでくれたんだ…!
まあ、結果大変面白く仕上がったのでむしろ感謝しないといけないのかもしれないけれど。
気づいたら宇野選手の演技は終わってしまっていて
結局後で録画を見直したのだった。宇野選手には本当に申し訳ない。
それにしても85歳になって、ムーンウォークをやってみたいと思うあたり、
好奇心を失わずに年を重ねることの大切さをしみじみと感じた次第。
祖母のムーンウォークがどじょうすくい風を抜け出す日は来るのだろうか。
孫としてはその日がきてほしくないような、複雑な心持ちである。
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