一筋の希望(「なめらかな社会とその敵」文庫版出版への感謝を込めて)
2013年7月、私はひどく絶望していた。
2013年4月にOne Voice Campaignの活動によりネット選挙が解禁されるも、その年の7月に参議院選挙ではあまり変化が無かったためだ。
その7月にFirstStepという活動を通じて大量の人々に投票日を伝える活動にも関わっていたが、その限界も思い知らされた。
これ以前には、水俣条約への政策提言を行ったり、徳島県美波町の地域活性アプリ開発合宿に参加したりしていて、地域・国政・国際と政治に関わる活動に参加していた。
政治に関わる理由としては、元々私自身が貧困・虐待という社会的弱者だったため、公共サービスに注目していたためだ。
ただ色んな私自身の活動や、その中で出会う先輩方の活動をみて、大きな限界を感じた。これは確かに虐待・貧困が今まで解決してこなかった、と。
それからというもののひたすら本を読み漁った。
もちろん上には上がいることは承知だが、当時大学生で一人暮らしをしており、親からの仕送りもないため、家賃4万円の家に月収7万円で暮らし、1日3時間の睡眠時間で、1年間で100冊読んでいた。
読むスピードが遅いタイプなので線を引いたり、壁にポストイットを貼ったりして知識を整理していた。結果的に3年間で300冊を読んだ。
少し時間は戻るが、2013年2月にたまたま参加していたイベントがあった。それがソーシャルメディアウィークだった。
そこで基調講演を行っていたのが現在スマートニュース代表の鈴木健さんだった。当時の様子はこちらのtogetterにまとめられている。
この基調講演を聞いていたときは正直あまりよく分からなかった。でもなんかすごいことを言っている感覚だけはあった。
そこから参院選のあとこの「なめらかな社会とその敵(通称「なめ敵」)」を拝読した。
基本、読書は1回しかしない。だいたいすぐに理解できるからだ。だけどこの本は1回では足りなかった。
何回も読めば読むほどに、だんだんと光が降り注ぐ感覚があった。それは私が親と住んでいたころ、虐待と貧困の暗い中に一筋の光が入ってきた感覚だった。果たしてこの10年間で何回読んできただろう。
(その後、私は9月からシアトルに語学留学にいき、2014年2月にはクラウドファンディングで30万円を集めてサンアントニオで開催された米国ファンドレイジング大会に参加し、アメリカNPOのすごさを目の当たりにし、ちゃんとビジネススキルを身に着けようと決意し、Tokyo Otaku Modeに入社したのだった。詳細は以下)
ビジネススキルを身に着けると同時並行で、社会問題の研究に勤しんだ。
その研究が結実したのが拙著「悪者図鑑」である。
社会問題(貧困など)から最終的な悪者(いじめ・虐待・ハラスメント・差別など)が生まれるストーリーをデータとイラストで書いた内容だ。
社会問題が生まれる原因は端的に言ってしまえば、近代社会システムのせいだ。近代社会システムとは、理性的な人間に自由を与えれば、民主主義も資本主義もうまくいく、というもの。
しかし現実は人間は理性的にはなれなかった。なれる人もいればなれない人もいる。理性的な人だと思ったら週刊誌に取り上げられ、全然理性的に見えない人が意外とちゃんとしてたりする。それが人間だった。
この本来の人間の現実に合わせて理想的な社会システムを設計する必要がある。そこで「なめ敵」の中で書かれている「伝播システム」が必要になってくるのだ。
詳細は「なめ敵」、概要は拙著「悪者図鑑」でも紹介している。以下伝播システムのイラストである。小さい頃のイチローが大きくなって周りに還元したり(左)、投票が他者に委任できたりする(右)世界観だ
私はこの伝播システムを実現するためにインドでスマホのプロジェクトを立ち上げた(しかしコロナの影響で失敗に終わった)。今は教育現場において何かできることは無いかと模索している。
研究においては「敵と仲間」のグラデーション(なめらかさ)を計算したいと思っており、人間の性格がどのようにできあがるかを調べている。それがわかれば相性のいい性格と悪い性格がわかるからだ(詳細は以下)。
10月17日の夜(昨日)、「なめ敵」文庫版の出版記念イベントが表参道・青山ブックセンターで開催された。私自身も鈴木健さんのアメリカ縦横断イベントぶりにお話を聞きたく参加し、サインをしてもらった。健さんからのサインは2回目だ。僭越ながら、拙著「悪者図鑑」も献本させていただいた。
10月29日には京都・法然院で数学者の森田真生さんとのイベントもあるので関西の方にはこちらをおすすめしたい。
私の活動のモチベーションは、過去にあった私の原体験だけでなく、未来に対する「伝播システム」の実装を目指している。
そのためには人間の理解が必要であり、そのために研究所として美術館(思想)・シンクタンク(政治)・大学(科学)・銀行(経済)を立ち上げたいと思っており、そのためにデータとお金を稼ぐために起業・出版している。
ここまでの10年間、心折れずに活動ができたのは「なめ敵」のおかげである部分は本当に大きい。
少しでも多くの方に読んでいただきたいと思っている。