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【連載第2回】RPE活用におけるコーチとの連携(後編)

RPE(Rate of Perceived Exertion=主観的運動強度)活用におけるコーチとの連携(後編)では、選手へのアプローチ方法や練習計画を立てる際にどうRPEを活用するのか、またRPEを活用したトレーニング方法などについて、臼井コーチに聞きました。


>(前編)はこちらから

3.選手へのアプローチ


ーー チームでRPEを活用する際、選手に対してはどのようにアプローチしたらいいでしょうか?

臼井コーチ:選手に対しては、自分たちの練習がどうなっているかという振り返りの必要性を説明することが大事です。ただやみくもにコーチに言われたことだけをやって、何となく練習を終えるのではなく、今日の練習はどれぐらいの強度があったのかということを、選手にも振り返ってもらうことが必要です。

そもそも、練習に参加するときには自分のコンディションがどうなってるのかということを考えたり感じることが、一人のアスリートとして大事なはずです。

トレーナーやS&Cコーチがそういう数字を見たいからというのではなく、選手への教育的観点から、選手自身が自己管理できるようにするためにも、RPEなどの数字はとても役に立ちます。

練習の強度を振り返り、コンディションを自己管理するのにもRPEは役立つ

ーー 実際に今コーチングしているチームにおいては、選手たちへはどのようにアプローチしていますか?

臼井コーチ:本当に今言ったような感じですね。特に高校生・大学生のレベルだと、あまり僕らがこういう数字を管理していますということは言わずに、練習前には選手に自身の体調を確認するよう促しています。

練習後は「今日の練習はどうだった?」という振り返りを促します。それによって練習量や負荷が足りてないようなら各自が追加し、練習負荷が高かったというときにはしっかりとリカバリーをやる、という意識を持たせます。リカバリーの仕方がわからないときには「我々スタッフに声をかけてくださいね」と選手に伝えるようにしています。

ーー 選手たちの反応で、何か印象に残るものはありますか。

臼井コーチ :そうですね、例えばコンディションが落ちてきてるときに予定していなかったオフが入ったりすると、選手は皆、「きちんと正直に数字を入れてよかった」と喜びます。

また、こういう数字を使うのに慣れてきたチームには、「今週のRPEはこのぐらいになっているけれど、来週、再来週はこの程度までいくよ」という計画を見せてあげることで、選手たちの準備がしやすくなります。

数字を媒介とすることで、コーチが計画していることを、同じように選手たちが理解することができると思います。

予定RPEを伝えれば選手たちの事前準備にも役立つ

ーー 特にチーム全体や選手に対するアプローチで、監督やコーチに気をつけてもらっている点はありますか?

臼井コーチ:はい。選手個人の数字をもとに会話しないようにするという話しをしましたが、これに加えて、例えば「数字に基づいてこれを行います」というような表現は避けてもらうようにします。数字でコントロールしてるという印象をチーム内で持たれてしまうと、自分が感じた数字ではなくコーチが望んでいる数字を入れたり、主観以外の数字が混じるなど、選手が数字を操作し始めることがあるためです。

選手に対しても最初はゆるく始めることが大事です。

また、スタッフやコーチがRPEをものすごく見てるということが選手に伝わりすぎないようにすることも重要です。一例を挙げれば「皆、昨日の練習はかなりきつかったと言ってたらしいな」などという会話もしないようにしてもらいます。

一方で、長く続けていったときに、あまりにも数字を見ていないとなると、今度は選手が「数字を入力したところで誰も何も見てくれてない」「(数字を練習に)反映しない」と思ってしまうことも考えられます。

ーー 見すぎてもだめ、見ないのもだめということですね。

臼井コーチ:はい。適宜数字を使いながら選手と話をしていくという、その辺のバランスが大事になってきます。

4.練習計画とRPEの活用

ポジション別のsRPEのグラフ例(Sunbearsより)

ーー 次に、練習計画に対してどうRPEを活用するかについて教えてください。

臼井コーチ:練習計画では、1日の合計のsRPEを把握し、それを基に週間プランを作成します。例えば、「特定の曜日には高いsRPEを設定した練習を組み、別の曜日には負荷が下がるようにする」といった計画です。計画通りに練習が進んでいるかどうかは、実際のRPEとコンディションを見ながら確認することができます。

負荷を上げる際のセオリーは急に負荷を上げないということです。特に年末年始に学校が休みの場合など、チームとして2週間ぐらい活動していない期間があったりします。そこで急に通常通りの練習に戻したりすると、どうしてもケガの発生リスクを高めてしまいます。

その場合、通常の負荷よりも2~3割低く設定し、「合計sRPEはこの程度を目指す」といった計画を立てていくこともできると思います。

ーー sRPEの合計はチーム全体のものですか、それともポジションごとですか?

臼井コーチ:基本的にはポジションごとに1週間の合計sRPEを見ます。ただし、バスケットのようにポジションがあまり関係ない場合はチーム全体で見ることもあります。ラグビーやアイスホッケーのようにポジションによって負荷が大きく異なるスポーツでは、ポジションごとに見ていきます。

もう一つ、試合期からの逆算という計画の仕方があります。試合の週もしくは大会期間中にかかる負荷を予想した上で、試合期の負荷よりも高い負荷をかける期間を設け、試合に備えるという計画の立て方です。普段の練習ではそれに耐えうる体を作っていくことを目指します

ーー 大会中の負荷予測はどのように行いますか?

臼井コーチ:そこはなかなか難しいのですが、試合日程がわかれば、その期間の負荷を推定しやすいと思います。例えばバスケットボールとラグビーでは試合頻度が異なりますので、それぞれ試合が連続した場合の負荷、週に1試合ある場合の負荷を、試合日程から予測して見ていくことはできると思います。

5. RPEを活用したトレーニング

競技以外のトレーニングで負荷の調整も

ーー 最後に、練習やトレーニングでRPEをどのように活用すれば良いですか?

臼井コーチ:1日のsRPEを調整する際には、主に2つのアプローチがあります。一つは競技そのものの練習で負荷を調整する方法。もう一つは競技以外のトレーニングで調整する方法です。いずれもコーチと相談しながらの活用になるかと思います。

例として、バスケットの練習負荷を上げたい場合、バスケットボール練習だけで負荷を上げるか、ランニングやサーキットトレーニングなど競技以外の要素を加えて負荷を増やすのか、コーチと話し合い調整することが可能です。特に後者では、トレーニングの強度を高め、総負荷を増加させることができます。

また、試合以上の負荷や強度を練習中に実現することも重要ですが、試合形式の練習だけでは限界があります。そこで、試合より速いテンポでの練習を行ったり、休息時間を短縮したりして、試合を超える状況を作り出します。あるいは試合形式の練習とランニングなどのトレーニングを組み合わせ、よりハードな条件下で練習するといったことをやったりします。

ーー つまり、練習の強度を上げれば、試合でのプレッシャーを軽減できるということですか?

臼井コーチ:はい、その通りです。どの競技、レベルにおいても、試合には練習以上のプレッシャーやストレスが伴います。試合が一番きついと感じたり、試合中にパニックになることを避けるためには、試合を上回る強度の練習を選手が体験することが重要です。

日頃の練習において選手たちが試合以上の強度に慣れることで、試合中に冷静な判断ができるチームを構築できます。

6.まとめ

【RPE活用におけるコーチとの連携(前編・後編)のまとめ】
チームがRPEを導入・活用する際のポイントは下記の通りです。

RPEを使うべき理由
■ピーキング:適切なコンディションで試合を迎える、ケガ防止:過剰な負荷を防ぐ

コーチとの連携
■コーチのRPEに対する姿勢に応じて段階的に進める
■異常値はすぐにコーチに報告する
■練習計画に対する負荷の予測と影響をコーチに伝えられるよう日頃から準備しておく
■数字はあくまでも参考値。総合的な判断材料のひとつにすぎないということを念頭に置いておく
■個々の選手の数字はフィードバックしない

選手へのアプローチ
■数字で練習を管理している印象を避ける
■RPEによる「振り返り」の重要性が大事。選手自身がコンディションを自己管理できるように促す

練習計画とRPE活用
■1日のsRPEを把握したうえで週間プランを立てる
■負荷を上げる場合は、急に上げない
■試合からの負荷の逆算で練習計画を立てる

RPEを活用したトレーニング
■2つのアプローチ(いずれもコーチと要相談):
 ①競技だけのトレーニング
 ②競技+競技以外のトレーニング
■試合以上に強度を上げた練習で普段から慣れておく

>連載第3回『フィットネス疲労理論とACWRと概論』につづく

文・久保田久美
編集・翻訳者/サポートスペシャリスト
Sunbears マーケティングチーム

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