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シカト教室

なんでこの世に学校なんてものが存在するのか。学校を発明した人間を過去に戻って殺したい。
なぜならぼくにとって学校は地獄でしかないからだ。皆が楽しそうにへらへらしながら文化祭だ体育祭だクラブ活動だとじゃれ合っているのが、ぼくにはまったく理解できない。
なぜかって?
理由はただひとつ。
皆が、おれを無視するからだ。教師も、生徒も、まるでぼくがそこに存在しないかのように無視するのだ。
入学して1年を過ぎようとしているが、おれは誰からも話しかけられたことはないし、授業で教師に指名されたことも一度もない。前から順番に指名するときでもおれだけ飛ばしていく。わざととしか考えられない。おれが、話しかけても皆が無視する。
想像できるか? これ以上の地獄を。
自分がそこにいながら、そこにいないような気分になる。
ある日、耐えきれず、授業中におれは思いきり絶叫してやった。
それでも、教師も、生徒も完全無視だ。
申し合わせているとしか、思えない。きっと何か大きな団体みたいなものがあって、おれが入学するときから、何かの目的でそうしようと皆で合意しているのだ。
その目的とは何なのだ。いったい、何をたくらんでいるというのか。
なんで、無視されているのがおれなのだ、なぜおれだけが無視されるのだ。他に無視されている人間は一人もいないのだ。
「お前ら、なんで、おれを無視するんだ?」
クラスの一人一人にそう尋ねて回っても、無視されるだけだった。
悩みが頂点に達して、ある日、急にどうでもよくなった。すべては調和に向かうのだ。
おれは、学校に行かなくなった。
最初からそうしていればよかったのだ。一体何を悩んでいたのだろう。
学校に行かなくなって三日ほどたった日、誰かが家に来た。
インターホンをのぞいてみておれは愕然とした。
担任の教師だった。
「寺田くん、どうして学校を休んでいるんだ。皆心配しているぞ」
無視していると、翌日からクラスメイトたちがかわるがわる家にやって来た。
「寺田、どうしたんだ、学校来いよ」
「寺田くん、お願い、学校に来て、何があったの?」
「寺田、何かあったのなら相談しろよ」
あまりにしつこいので、学校に行った。
やはり、皆、おれを無視するのだった。

(了)

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