湯山さん
カナエさんの家で新年会をやるというから来たのだ。どうせメンバーは、カナエさんとその友達の羽根田さんと中野さんとあとせいぜい中野さんの彼女のよう子さんくらいしか考えられず、全員知っている人なので安心だからだ。なのに一人だけ知らない人が来るという。湯山さんという男の人らしい。
あたしは知らない人が苦手だ。だから帰りたくなったが、言い出す前にビールを飲んでしまった。もっと飲みたくなった。
湯山さんが来る前に酔っぱらってしまおうと、あたしは缶ビールを二本飲んだ。知らない人が怖いからだ。
三本目を開けたところで湯山さんが来た。湯山さんは太っているわけではないが、全体的に白くむくんだような感じで、目と口元が垂れ下がっていた。少し安心した。
「この人、最近子どもができたのよ」
カナエさんが、缶酎ハイを飲みながら言った。湯山さんは、よう子さんにビールをついでもらいながら、いやいや、と笑った。
「子どもっていっても、その、まあ、あれですからね」
「でもおめでたいじゃない」
「そうそう、お祝いしなきゃね」
あれ、という意味がわからず、あたしは誰かが聞くだろうと思っていたが、カナエさんも真木さんも羽根田さんもよう子さんも、みんなわかったような顔でうなづいている。
「湯山さんの子どもに乾杯!」
カナエさんがそう叫んでグラスを差し上げた。みんな、乾杯とかおめでとうとか口々に言いながらいっせいに湯山さんのグラスめがけて突進したので、しかたなく、あたしもそうした。
「おめでとう」
「男の子? 女の子?」
「名前決めたの?」
みんなが質問責めする。湯山さんは、ビールを一口飲んだだけでたちまち目元を赤くして、
「いやいや、子どもっていっても、あれですから」
他の人たちが、口々に、いやいや、とか、よかったねとか言いながら、湯山さんのグラスにビールをついだ。
同じことが何度も繰り返された。あたしはすることがないので、ビールをがぶがぶ飲んでいるうちに寝てしまった。「あれ」が何なのか結局わからなかった。