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江戸より前

 多摩川沿いを自転車で走り、府中へ出かけた。
 日の出前の早朝の堤防は人もまばらで、下手くそな自転車乗りにとっては安全この上ない道程だ。日がうっすら昇り始めると、遠くの多摩丘陵の景色が薄桃色に染まっている。だんだん背中に眩しい陽光が当たってきて暖かい。ふと見ると、自分の影が河原の草に伸びて映っていた。道沿いの木々からキラキラとした朝の木漏れ日が落ちている。辺りのものすべてから躍動感が伝わってくるようだ。太陽のありがたさを感じながら、ひたすら西へ向かった。

 さて、東京に住んでいると、この街が江戸という都市の延長で作られていることを実感する。江戸城(皇居)を中心に、まわりは大名屋敷や旗本屋敷(官庁街、大手町のオフィス街)が取り囲み、近くには街道の起点日本橋(東京駅)がある。移動手段や社会構造の変化による違いはあるにしても、都市としてのベースはあまり変わっていないと思うことが多い。
 しかも江戸のビジュアルイメージは浮世絵によって刷り込まれているときている。北斎や広重の名所絵は、庶民文化が成熟し幕末の動乱を迎える少し手前の泰平の時代の空気感とともに、遺跡とはまた別のリアルさで深層心理にまで刻みついている。まあつまりは江戸が好きなのだが、とにかくそのイメージが強すぎて、江戸より前のこの辺り(東国)をなかなか想像できないでいた。

 そこで古代から中世の東国の景色を自分の中で作り上げてみたいと思うようになった。江戸と東京の都市としての共通点は、海側寄りに首都機能を置いていることがあるだろう。江戸城はもともとは日比谷入江のほぼ沿岸にあったし、東西を繋ぐ陸上の動脈は東海道だ。まずは海側つまりは東海道から離れて、東山道が律令国家を支えていた頃、府中が本当に府中だった頃、鎌倉街道を軍馬が往来した頃を辿りながら、近世よりも前の光景を追ってみたい。




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