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もしこの世界が、23歳までしか生きられない呪いに縛られていたとしたら。

最近、映画とか本とか、とにかくなんであれエンタメで涙を流す、いわゆる涙活と言う経験から少し離れていたように感じる。

しかし、そんな私を引き摺り込むように涙、涙の大号泣の世界へと誘ったとある物語がある。

ここであえて物語、という言葉を使ったのは、先に申してしまえばこの記事はいわゆる「レビュー記事」に属するものになるわけだけれど、そんな形式ばった形じゃなくて、とにかくこのシナリオの良さみたいなものをシンプルに伝えたかったからだ。

ハッキリと言える。今回出会ったこの物語は私の知りうる限りの物語の中で私が一番泣いた物語だった

読んでもらうのは、途中まででも構わない。とにかく私が出会ってしまったとある物語から受けた衝撃を何か形にしておこうと思った。それだけのために、今日は筆を取った。叶うことなら、記憶を消してもう一度この物語に出逢いたい。

それはとあるゲームだった

ここでバーンとタイトルを挙げてしまっても良いものかはいささか迷ったが、その物語はゲームシナリオとして世に出ている。迷いに迷った末、今回は先に物語の概要を話させて欲しい。先にタイトルを出してしまうと、きっとどうしても「レビュー」感が強くなってしまう気がする。ひとまず、あらすじを読んでほしい。

四方を黒いリコリスの花で囲まれた島国、アルぺシェール。この国にはとある呪いがありました。
この国の人々は、島にかけられた「死の呪い」によってみなそろって23歳までしか生きられません。万人に等しく死が降り注ぐアルペシェールは、いつしかこう呼ばれるようになりました。
――死神に魅入られた国、と。
21歳ごろから結核のような症状が見え始め、23歳を迎える頃には男女問わず死に至るのです。
そこで、国の天才科学者が考えたのが「リライバー技術」という、23歳を超えてもなお生きながらえるための延命技術でした。23歳までに死を迎える肉体を捨て、記憶だけを生き永らえさせる――“記憶のダウンロード”。
人々は本人の遺伝子から作った“クローン体”に“記憶データ”をダウンロードし、同一人物として生命活動を再開させることで、リライバーとなり生き長らえることができるのです。
しかし肉体的な寿命は今までと変わらないため、彼らは永遠と《23年》生きては死んでを繰り返します。
しかし【生き永らえる】という点では万能なリライバーシステム。しかし、リライバーになるには莫大な金銭と、もう一つ大きな代償を支払う必要がありました。
それは、膨大なメモリを使用する「感情」をデータとして引き継ぐことができない、と言う点でした。中でも一番複雑な「恋愛感情」を引き継ぐことはリライバーには不可能に近いとされています。客観的なデータとして、以前の自分が誰かを愛していたことを覚えていても、リライバー化した新しい自分に同じ感情を宿すことは、現時点でのアルぺシェールのリライバー技術ではほぼ不可能でした。

とまあここまでで天才か!?と言わんばかりの要素が詰まったあらすじなのだが、リライバー技術ってとっても夢があるようで、実はちょっと怖かったりもする。この国の人は、「死んでもリライバーになればいい」(バックアップを取るのにはめちゃくちゃお金はかかるけど)という気持ちがあるから、死に対して軽々しく捉えている人も多い。

そんな中でも、たとえば一度目の生で本当に愛する人を見つけた男女がリライバー化を恐れたり、自分の身体のクローン体に変えてしまうことに抵抗のある人たちが集まる団体もあったりするわけだ。さらには、信仰の関係でリライバー化を拒む人もいる。


キャラクターの中にも大切な想いを失ってまで生き永らえることへの価値を感じない人々はもちろんいて、彼らは彼らの信念をきちんと持っている。リライバーになるという選択に反して、短く儚い生を美しく温かく生きるという選択肢も、たしかに存在するのだ。

もしこの世界が、23歳までしか生きられないルールに縛られていたとしたら。そして、そんな中でも、24歳、いやもっと先まで生きていける唯一の術があったとしたら、わたしは大切な人への感情を捨ててでも生き永らえたいと思うのだろうか。本気で考えた。

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わたしは、きっとリライバーになっても生きたいと思うのだろうな

そう思った確固たる理由は、私が先月24歳の誕生日を迎えたばかりだからだ。正直、まだまだやりたいことはたくさんあって、眠りにつくには早すぎる。

ゲームのレビューは一旦置いて、皆さんがこの世界の住人だったらどうするのか、是非考えてみてほしいと思うし、かなり意見が分かれるところだろうなと思った。希死念慮の有無とかも関係しそう。

死神と呼ばれる主人公

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このゲームはいわゆる私の大好きな乙女ゲームだ。だがしかし、ほんとうにそのシナリオの秀逸さゆえに、ただの恋愛シュミレーションゲームだと思ったら大火傷をする。個人的にこのゲームは、男性がプレイしても泣く人は泣くと思っているくらいだ。

主人公・セレスは物心がついた時からなぜか周りの人々が死んでいってしまう特異体質を持っていた。火事だったり、病気だったりと理由さまざまであったが、彼女の周囲にあまりに呪いが頻発するゆえに「死神」として街の人々に忌み嫌われていた。

ある日、セレスは自分が原因で起こったであろう事故に自責の念を感じ、ついに自殺を図ろうとする。

そこで彼女の自殺を止めたのは自らを死の番人と名乗る、アンクゥという男だった。この2人の出逢いから、わたしたちはこの乙女ゲームの恐ろしいほどまでに緻密に練られた伏線に、私たちはまんまとはめられていく。

以下ネタバレ注意

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アルペシェールの呪い(23歳までに死ぬ)の原因は土壌の毒素によるものだった。リコリスの花は日本でいう彼岸花のことで、アルペシェールでは黒い花を咲かせるが、その原因は土壌の毒素を吸収し、毒素を周りに拡散するのを防いでいた為だったのである。

セレスにはアドルフという同じ施設で育った兄のように慕う男がいた。リミットである23歳が近づいているというのに不思議と呪いの進行が遅いアドルフ。彼の正体は島の外から来た漂流者だった。

アドルフはセレスに密かに想いを寄せる。そして実は、死の番人・アンクゥは未来から来たアドルフだった。

一度目の時間軸では、アンクゥという存在自体がいなかったがために、主人公はそのまま自殺してしまう。そのショックから立ち直れなかったアドルフは国立研究所で実験されることで不老不死を手に入れ、外国に逃れて時間を遡る技術を手に入れていた。主人公が生まれる500年前に遡ったアンクゥは親友・イヴの祖先にもらったリコリスの球根をアルペシェールに植えて繁殖させながら、アンクゥ自身の体内に毒素の抗体を作るためリコリスを食し続ける。

愛するセレスを救うため。気が遠くなるような長い時間をのたうち回るような痛みと孤独に耐えて過ごしてきた。

そしてようやく長い長い時を経て二度目の時間軸でセレスに出逢う。セレスが自死しようとしたところを止めに出たアドルフであるが、長い時を超えてすでに姿はセレスと一緒にいたアドルフからは変わり果て、彼は自らを「アンクゥ」と名乗り、別人の姿で愛するセレスを出迎えることにしたのだった。


泣きました。攻略対象の中に未来・過去の時間軸を超えた同一人物がいる、という異色の結末に空いた口が塞がらず(涙も)クリア後はしばらく呆然としてしまった。そしてまあなにより伏線の回収が素晴らしい…!ここまでだいぶ掻い摘んでの説明なので100分の1くらいのストーリーの厚みになってしまったが、三者三様全てのキャラに死の呪いにまつわるジレンマが蔓延る本作品。私個人としては大変嬉しいことにメリーバッドエンド(メリーバッドエンドは、受け手の解釈により、ハッピーエンドかバッドエンドかの解釈が分かれるような結末のことを指す言葉)も満載だった。

しかし、システムの仕様で「全てのバッドエンドを回収しなければハッピーエンドを見ることができない」ので辛い人にはかなり辛いかもしれない。そう言った意味で好みが分かれる作品だとは思う。それでも私は声を大にして言いたい、人生の中で今このタイミングで「終遠のヴィルシュ -ErroR:salvation-」に出逢えて本当によかった。間違いなく今年トップの神シナリオだった。

最高峰のメリーバッドエンド

以前エッセイにも書いたように、わたしはメリーバッドエンドが大好物である。中でも終焉のヴィルシュはそのテーマ性もあって、「生きることに、生ならではの喜びである感情が伴わなくても幸せなのか」というところに重きが置かれたエンドが多かったように感じる。

たとえば、とあるルートでクローン体の生成が間に合わなかった主人公が「好きな人の身体を共有することで、2つの人格をひとつの体に宿して生きる」というなんとも歪なエンドもあったりする。それに、上記のアンクゥだって、実はアドルフとしての救いはあってもアンクゥとしてのセレスと歩む幸せの形は本作には描かれていない。暗澹たる絶望の淵で見える一筋の光ほど美しい、ということなのだろうか。ファンディスクに期待が募る。


--23歳という終焉が定められた世界で、貴方ならどう生きますか。



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2021.11.27
すなくじら


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