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【第一章 モノをとおしたコミュニケーション】 じいさん、墓を建てる!の巻
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最終的にカタチになったものが心に残る(作った人にも、見た人にも)―吉岡徳仁(デザイナー)
期限付き墓地の「夫婦墓」を見学したことで、むしろじいさんは妻に似合う、そして妻が喜ぶであろうお墓を建てたいと考えるようになった。
それはもしかしたら、「妻」への想いをとおして「自分たちらしさ」を追求したい現れなのかもしれない。
そう考えはじめると、これから自分たちのお墓を建てることに、とてもワクワクした気持ちが芽生えてきた。
「お墓を建てるのに、ワクワクするなんて不謹慎だな…」
家からそう遠くない市営霊園の空き区画の募集に当選した墓ありじいさん。
息子と娘の帰省に合わせて、親子三人で墓石店との商談におもむいた。
じいさんは、残りの人生を考えて、よりお墓に長く足を運ぶであろう子どもたちの意見を尊重した。
こうしてお墓について「ああだ、こうだ」と意見を言いあえることが嬉しくて、「お母さんだったら、こう言うだろう」という会話をできることが幸せだった。
じいさんはその時間、妻がそこに存在するかのように感じていた。じっさいに、そこに居たのかもしれない。誰にも見えなかったが、私たちの会話を微笑んで聞いていたに違いない、と。
ようやく細かいプランも決まり、墓石店との契約も済ませ、久しぶりに墓なしじいさんに会い、その報告をした墓ありじいさん。
墓なし爺さんは、「墓が出来上がるのが楽しみだな~」と言い、少し寂しそうにこう言った。
「この間、一緒に見に行った墓地の話を県外に住んでいる息子にも話してみたよ。そうすると、こう言ったんだ。
『妻もこっちの人間だし、俺たちはもうそこに戻る予定はないから、どんな墓でもいいから、将来的に負担がかからないようにしてくれよ。俺が言えるのはそれくらいだな』だってさ。
まぁ、ある意味では吹っ切れたよ」
墓なしじいさんの家は両親が健在だから、子どもたちにとって墓というのは、ただの物体としてしか考えることができないのかもしれない。墓ありじいさんは、そう想像した。
自分の子どもたちが、自分たちの立場よりも、まず私のことをおもんばかってくれるのは、妻を亡くした私の感情を尊重したからだろう。そして、それは妻のことを尊重しているからとも受けとれる。
先のことは誰にもわからない。
でも先のことを考えるよりも、いま置かれている現状を大切にしようとしたのは、きっと私だけでなく、子どもたちも母親を亡くした悲しみ、哀悼があり、それを何らかの形で昇華しようとしているからかもしれない。
墓なしじいさんと別れた帰り道、墓ありじいさんは、あらためて亡き妻への惜別の情が沸き上がってきて、胸がつまった。
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