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スナネズミにみかんを与えても良いのか

このnoteは僕が自分用として調べた内容です。
本内容をそのまま鵜吞みにすることはせずに必ず信頼がおける獣医さんや飼育書の指示に従ってください。


Instagramにみかんを食べるスナネズミを投稿したところ、親切な方から「柑橘類をスナネズミに与えてはいけない」とアドバイスをいただいた。

過去、かかりつけの獣医師さんに少量のみかんを与えることについて確認を取った上での事だったが、改めて言われると不安な気持ちになった。

自分自身も「なぜ与えてはいけないという説があるのか」についてそこまで深く考えていなかったので、この機会に調べてみることにした。

目的

以下について調べる。
あくまで「どの程度の量であれば安全か」という指標を得る事が目的。

  1. スナネズミにみかんを含む柑橘類を与えても良いのか

  2. 良いのであればどの程度の量、与えることが可能か

前提

そもそも何が悪いのか

Claudeに聞いてみると、皮はダメだが果肉は少量ならOKと回答するし、Copilotは全面的にNGと回答する。

色々検索をしてみても漠然とした回答しかなく、しっかりとした背景つきで「ダメだ」という情報は見つけることができなかった。

現時点でわかっている事は以下の通り。
念のため、再度獣医さんにも確認済み。

  1. みかんを含む柑橘類に含まれる「d-リモネン」がラット雄の腎臓に悪影響を及ぼすらしい

  2. 獣医さんも「柑橘類を与えてはいけない」という説がある事は認識している

  3. その上で、たまに少量程度与える分には問題ないが、水分や糖分が多いので与えすぎには注意、という判断

  4. 不安なら様子を見ながら与える

  5. 書籍「ネズミ 完全飼育」には、d-リモネンはラットにおける腎臓への悪影響が記載されており、他にも食べられる果物が多くある中、わざわざ与える必要はない、という結論。

上記を踏まえて更に調べを進めてみた。

そもそも「ラット雄に柑橘類を与えてはいけない」というデータはどこから来ているのか

検索したところ、以下の様な内容がヒットした。
(元データは閲覧できず)

抗 α2u-グロブリン抗体を用いた免疫組織化学染色の検討

第16回 日本毒性病理学会 講演要旨

上記の論文要旨から以下の事がわかった。

  • 11週齢のラットに10日間連続で300mg/ kgのd-リモネンを経口投与した際に腎症が認められた

  • 11週齢のラットに10日間連続で150mg/kgを投与した時、腎に変化は認められなかった

  • 使用したラットの系統はCrj:CD(SD)IGS

現在言われている断片的な(背景がない)情報は、おそらく上記がもとになっているものと思われる。

当然この内容だけではあまり意味がないので、更に調べを進めたところ、以下の文献を見つけた。

雄性ラットでは、d-リモネンへの曝露が腎臓障害と腎腫瘍を惹起する。雄性ラット特異的タンパクのα2µ-グロブリンが、非腫瘍性および腫瘍性の腎病変の発生に重大な役割を果たしている と考えられている。

Concise International Chemical Assessment Document No.5 Limonene (1998)

内容を簡単にまとめると以下の通り。

  • ラットにおける d-リモネンの急性毒性は、LD50値の大きさに基づけばラット(雄)で5.1g/kg、マウスで6g/kg(経口投与)である。

  • ラットで85mg/kg投与時、胆汁の流れが増加するなど変化が生じる

  • 肝臓に対する無影響量は10mg/kg

  • 肝臓に対する無毒性量は30mg/kg

  • 腎に対する無影響量は5mg/kg

  • 柑橘類におけるd-リモネンはほとんどが皮に含まれる

こちらは具体的な数値が記載されているため、この文献を元にd-リモネンの①腎症への影響と②腎腫瘍への影響について考察を行った。

①d-リモネンと腎症の関係性

  • 0.15mg/gを10日間連続投与した場合は影響がなく、0.3mg/gを10日間連続投与した場合は腎症が認められた

  • ラットの週齢が11wとの事だったので、実験動物販売サイトでCrj:CD(SD)の体重を確認したところ、10wで350g程度であることが分かった

Crj:CD(SD)の体重曲線

結論1

0.15mg/gを10日間連続投与した場合は影響がなく、0.3mg/gを10日間連続投与した場合は腎症が認められた。

②d-リモネンと腎腫瘍の関連性

次に、d-リモネン摂取時のもう一つの症状である腎腫瘍を例にとり、d-リモネンと腎への影響について調べた。

d-リモネンはどの程度含まれるのか

先に示したデータは要旨であったため、詳細がわからなかった。

まずは、そもそも果実1個あたりどの程度のd-リモネンが含まれるのかを知るため、以下の論文を確認した。

Changes of d-Limonene Content in Three Citrus Species during Fruit Development.

Food Science and Technology Research 5 (1), 80-81, 1999

上記によると、リモネン最大含有量はウンシュウミカン;温州蜜柑の果皮(皮)で、最大103mg程度である事が分かった。(リモネンの量は収穫時期によっても変動するので最大の値を採用)

d-リモネンはどこに含まれるのか

冒頭に示した文献より、d-リモネンはその殆どが果皮に含まれる事が示唆されていたが、以下の文献もその内容を支持している。

柑橘香気の客観的評価法

日本食品科学工学会誌 44 (11), 745-752, 1997;Hirotoshi TAMURA

冒頭の文献および上記文献より、d-リモネンはほとんどが果皮(皮)に含まれ、みかん、オレンジ、レモンの果肉には検出不可能な程度しか含まれない事が確認された。

余談だが、冒頭の検索結果を振り返るとやはりClaudeがちょっと優秀だった事が分かる。

繰り返しになるが、d-リモネンは主に果皮に含まれ、果肉には検出不可能な程度しか含まれない。(この時の検出器はおそらくGC-FID)

結論2

「どの程度d-リモネンを摂取しても腎臓に影響を及ぼさないか」については以下の通り。

  • d-リモネンの腎に対する無影響量は5mg/kg

参考までに、肝臓に対する影響は以下の通り。

  • d-リモネンの肝臓に対する無影響量は10mg/kg

  • d-リモネンの肝臓に対する無毒性量は30mg/kg

③果肉に含まれるd-リモネン

今までに調べた文献では、果肉に含まれるd-リモネンは検出不可とされていた。

これは単純にその実験に使った検出器の検出下限値以下であり、含まれていないという意味ではない。

先述のClaudeでウンシュウミカンにおける部位ごとのリモネン量をmg単位で回答してもらったところ、以下の様な結果となった。(引用論文へのリンクはclaude側で削除されており、原典に当たれなかった。その為、以下の数値は参考値とする)

【果皮】 200~400 mg/100g
【果肉】15~40 mg/100g
【種子】 30~80 mg/100g
【果汁】 10~30 mg/100g

  • 参考文献

    1. González-Molina et al. (2010) J Sci Food Agric

    2. Qiao et al. (2008) LWT-Food Sci Technol

    3. Wang et al. (2011) Food Chem

まとめ

我が家のスナネズミ達には実際にどの程度与えることができるのか。最も閾値の低かった、腎に対する無影響量である5mg/kgを例に考えてみる。

  • d-リモネンの最大含有量はウンシュウミカンで最大103mg程度

  • 温州みかんの一般的な大きさと重さ(claudeより)

    • 直径: 約6~8cm

    • 1個の重さ: 約80~150g

  • ざっくりとだが、1個あたり115gのウンシュウミカンの果皮には約79mgのd-リモネンが含まれる。
    (データがないので少し乱暴だが、ウンシュウミカン150gの果皮にd-リモネンが103mg含まれるとした)

我が家のスナネズミは約80gなので、d-リモネンの腎に対する無影響量5mg/kgから考えると体重あたりの最大d-リモネン摂取可能量は0.4mg/80gとなる。

これはウンシュウミカンの果皮(79mgのd-リモネン)であれば約0.51%程度を与えても問題ない事を意味する。(実際には果皮は与えずに果肉だけを与えるが)

最終的な結論は個人ごとに異なると思うが、現在考えられる選択肢は以下の通り。

  1. ここまでの情報では果肉に含まれるd-リモネンの量がわからないので、与える頻度を減らす/そもそも与えるのを中止する

  2. みかんを剥いた手で、そのまま果肉やごはん類を触らない

  3. 腎臓や肝臓の機能が弱っている時は大事をとって控える

房単位でみたリモネン

一旦上記までで書き上げたが、どうにも納得がいかなかったので更に調べを進めていたところ、なんと砂じょう(さじょう)単位でリモネンを定量している論文を見つけた。

温州ミカン砂じょうの揮発性成分

Hidehito Takahashi et al., 東洋食品工業大短大・東洋食品研究所 研究報告書,  24, 109-114(2002)

本文献によると、温州ミカン砂じょうを膜部分と液汁に分けて揮発性成分の分析をしている。

測定装置はシングル四重極GC-MS(液体注入)で実施されており、今までの文献が採用しているGC-FIDよりも感度向上が見込める。

結果は、リモネンは膜中に715.6ug/kg、液汁中に9.5ug/kgという事なので、砂じょう中のリモネンという意味ではこれらの和である725.1ug/kgとなる。

1房に含まれるd-リモネン

1個のみかんに房が9個含まれると仮定すると、115gのみかんにおける1房は約13gとなる。

先ほどの約725ug/kgをmg/gに換算すると0.000725mg/gになるので、1房に含まれるd-リモネンは0.009425mg/13g。

すなわち1房を全て与えたとしても、我が家のスナネズミの腎に対する無影響量である0.4mg/80gを大幅に下回る事がわかる。

「僕なりの」結論

上記より、我が家におけるみかんの取り扱いは以下とする。

  1. みかんを剥いた手で、そのまま果肉やごはん類を触らない

  2. 腎臓や肝臓の機能が弱っている時は大事をとって控える

  3. 与える場合、1房の半分/日までとする。

サポートありがとうございます。すなねずみ達の為に使わせて頂きます。