なぜ人は屋台に惹きつけるられるのか? 〜「密」でも人が集まる秘密
緊急事態宣言が開けた途端、福岡・中洲の屋台街は満席状態に。
先日そんなニュースを目にしました。ソーシャル・ディスタンスが声高に叫ばれる今なお、明らかな「密」空間の屋台になぜ人は向かってしまうのか。
まちづくり・空間づくりの専門家として、そしてイチ屋台ファンとして、今回は“人々を魅了する屋台の秘密”を探ります。
お腹を満たしに行くのか、繋がりを求めて行くのか
一般的に、飲食店は開店後3年で70%が閉店すると言われています。きれいな内装で、腕利きのシェフがいる店だからといって長続きするとは限らないのが現実です。
一方で、正直きれいとは言えない、店も小さいのに何十年も愛される店もあります。
違いは一つではありませんが、愛される店のキーワードの一つに「繋がり」がある、とうのが私の考えです。
「食べること」だけが目的であれば、選択肢はたくさんあります。そもそも店で食べずに、コンビニで買ってしまうこともできます。しかし、人と人との繋がり、コミュニティを目的とした場合、話は変わってきます。
「あれが食べたい」のではなく「あの人(たち)に会いたい」が動機となれば、コンビニ飯や他の店では替えがきかないのです。
そして、飲食店として「繋がり」を生み出す最強の形態が、屋台だと私は考えています。
屋台とレストランの違いは、店と店の間、お客さんとお客さんの間、そして店とお客さんの間の物理的な仕切りです。もちろん、屋台の方が仕切りがゆるいですね。手を伸ばせば届きそうな距離にお互いがいるからこそ、自然とコミュニケーションが生まれます。
また、間仕切りが少ないという意味ではフードコートも屋台と似ているかもしれませんが、フードコートは一度客席に座ってしまうと、店との距離が一気に離れてしまいます。隣の客席との距離もあります。
屋台では席数を限定し、一店舗あたりだいたい7~8席にしてあります。店とお客さん、お客さんとお客さんが繋がれるような設計になっているのです。店主はバラエティ番組のMCのようにお客さん同士の会話を回したりもしています。
このような空間設計と、店主の技量によって屋台では日々「人と人との繋がり」が生まれ、この繋がりを(無意識のうちに)求めて、私たちの足は屋台へ向いてしまうのでしょう。
「サードプレイス」としての屋台
「サードプレイス」という言葉を聞いたことがありますか?
サードプレイスとは、アメリカの都市社会学者レイ・オルデンバーグが提唱した概念で、家(第一の場所)、職場や学校(第二の場所)とはまた別の、自分にとって居心地の良い第三の場所を指します。
スターバックスのコンセプトとしても有名です。
その特徴は8つ。
1)中立性:経済・政治・法律的に中立であること
2)平等性の担保:経済・社会的地位に重きを行いこと
3)会話が中心に存在する:活動のメインとして楽しい会話があること
4)利便性がある:オープンであり、アクセスがしやすい
5)常連の存在:新たな訪問者を惹きつけ、受け入れる常連がいること
6)目立たない:日常的・家庭的な空間で、あらゆる階層の人を排除しないこと
7)遊び心がある:明るくウィットにとんだ遊び場的な雰囲気があること
8)感情の共有:第2の家として、あたたかい感情を共有できること
—レイ・オルデンバーグ 『コミュニティの核になるとびきり居心地よい場所』より
このサードプレイスの特徴は、屋台にぴったりと一致します。
ただ飲んだり食べたりするだけではなく、人と人が繋がり、コミュニティが生まれ、誰かにとってのとびきり居心地の良いサードプレイスとして機能しているからこそ、この厳しい社会状況においても人が集まり続けます。
冒頭で中州の話を出しましたが、そのほかの地域でも横丁、屋台村などはコロナ禍においてもやはり賑わいを見せています。
これからのまちづくりは、“人の居場所を作る”思考
私はコンサルタントとして、全国各地それも田舎と呼ばれる土地のまちづくりに多く携わっています。これからのまちづくりを考える上で大切なことは、人が集まる場所へ出てPRすることではなく、人が集まる場を主体的に作ることです。
それも、イベントのような一過性のものではなく、中期的に人が集まる場所、つまりはコミュニティ空間に期待が寄せられています。
これまでは、まちづくりといえば行政主導で、[〇〇体育館]などの箱モノを作ろうとすることが多かったのですが、実際には建物や店舗だけを作っても人は集まりません。
大切なのは、「居場所」。
建物自体は重要ではなく、屋台のような仮設建築(=テンポラリーアーキテクチャー)がもつ自由さにむしろ可能性が眠っているという考えが広まっています。
屋台村に学ぶタウンマネジメントの原則
ですので、私はこれからのまちづくりを考える上で、屋台村や横丁と呼ばれるような空間を作っていくことを推奨しています。
画像引用:「渋谷横丁」公式サイト
2020年、コロナ禍真っただ中に開業したが、多くの人でにぎわっている。
一方で、その運営には難しさももちろんあります。
継続して人が訪れる場所を作るためには、やはりタウンマネジメントが重要です。タウンマネジメントというと少し大げさに聞こえるかもしれませんが、原理原則は同じです。
「屋台村」と名のつくところでも、うまくいっているところもあれば、閉鎖してしまったところもあります。その違いはマネジメントにある、というのが私の考えです。
ここでは屋台村のマネジメントを考える上で大切な、3つのポイントをご紹介します。
①新陳代謝を高める
店舗の入れ替えや、立地場所の見直しなど、常に空間を新しくし続けなければお客さんはすぐに飽きてしまいます。特に人気のない店がいつまでもそこに存在すると、屋台村全体の売上にも影響し、他の出店者の士気にも関わります。
少し冷たく聞こえるかもしれませんが、不人気店には場所をあけてもらい、即座に新しい店へと入れ替えるべきです。
各出店者は、ライバル同士でもあり、仲間でもあり、一体感を持って運営していくバランスが問われます。
②共通のコンセプトを持つ
では人気のある店であれば、どんな店でも出店していいかというと、そうでもありません。屋台村の場合共通したコンセプトが非常に重要です。
コンセプトの違う店があると、場所の統一感がなくなり、一つの店を訪れたお客さんが次の店へと足を伸ばしづらくなります。
例えば沖縄で人気の「国際通り屋台村」では、出店者の条件として
● 離島や沖縄本島の地元の食材を使った料理を提供できる方
● 出店者は、沖縄を愛し、お店を通じて地域情報の発信ができる方
といった条件をつけています。
③言い出しっぺが飽きない
そして、落とし穴になりがちなのが、出店者やマネジメント側が飽きてしまうことがあるという点です。どんなところでも、最初は皆気合に満ちています。
「よし、これからやるぞ!」とマネジメントも出店者も盛り上がっていますが、同じことを5年続けているとほぼ間違いなく飽きます。
大切なのは、言い出しっぺの人が飽きずにやり続ける覚悟を持つこと。さらに儲かった利益を再投資し、次に活かすこと。
常に新しいことに挑戦したり、長続きするためのルールを設定したりとそれぞれに工夫をこらしています。
(画像引用:「国際通り屋台村」公式サイト)
3年毎の店舗の入れ替え制などがあり、新陳代謝が高い。
人は、繋がりを求めて行動する
屋台村というのはとても面白い空間で、たくさんの「繋がり」が生まれてます。
・狭い客席で、客と客が繋がる
・近い距離で、店員と客が繋がる
・出店者同士が、仲間として繋がる
屋台に限らず、人との繋がりが生まれると、その人はその場所から離脱しづらくなります。
初めはラーメンを食べに行っただけだった。店主と話して顔を覚えてもらった。隣の席の常連客と仲良くなった。
こうなると次第に、ラーメンだけではなく、店主や他のお客さんとの会話を楽しみに店に通うようになります。
店同士も繋がることで、一人で店を出すよりも相乗効果でたくさんのお客さんを呼び込む効果が期待できます。
たくさんの繋がる屋台は、お客さんとして訪れてもやっぱり楽しいです。個人的な意見ですが、小洒落たお店は20代まですっかり満足してしまいました。
日本全国に、屋台村や横丁はたくさんあります。ぜひ足を運んでみてください。思いがけず、あなたのサードプレイスが見つかるかもしれません。
私が大好きな、屋台の話
少しだけ昔話をしますが、大工だった私の父は毎年ボランティアで千葉の九十九里の海の家を作っていました。お金のため、ではなく、繋がりを生み出す仕事として誇りを持っている父の背中はとても印象的でした。
そんな父の血を継いだのか、仕事で全国各地を飛び回っている私は、毎回屋台村や市場を巡って、そこでたくさんの人と出会うのが一番の楽しみです。
半径数百メートル四方に共同で出店している屋台、市場、マルシェなどは、建物の形は違っても、人の繋がりを生むという意味では同じです。
最後に私のおススメの屋台村や市場をご紹介して今日は終えようと思います。
■高知県 ひろめ市場
高知の美味しいものが大集合!魚だけではなく、肉、中華、インド料理、バーなどバラエティ豊かなお店が入っていて、いつ行っても楽しめます。
画像:「ひろめ市場」のパンフレット
〒780-0841 高知市帯屋町二丁目3-1
■和歌山 とれとれ市場
新鮮な魚介類が食べられる「とれとれ市場」の周辺には、温泉や釣り堀、屋形船などもあり食事以外にも楽しめるアクティビティがたくさんあります。
画像:「とれとれ市場」公式HPより
〒649-2201 和歌山県西牟婁郡白浜町堅田2521
■瀬永島ホテル
瀬永島は、島まるごと屋台村のような雰囲気があります。私のとっておきの場所です。中央の丘の上にあるのがホテルでその手前には屋台がたくさん並んでいます。
画像:「瀬永島ホテル」公式HPより
〒901-0023 沖縄県豊見城市瀬長174-5
株式会社SUMUS 代表取締役
小林 大輔
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同エリア内でのコンセプト統一について、指揮をとるトータルプロデューサーの存在と合わせて書いています。
「人を集める」「仮説建築」という点で屋台と非常に似ている、マルシェについて書いています。
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