
小川町と地粉を愛する!研究家親子の天然酵母パン屋《おがわのひとインタビュー》
こんにちは!スモリバ編集部です。
埼玉県小川町の魅力的で個性豊かな「人」にフォーカスしたインタビュー記事【おがわのひと】。今回のおがわのひとは、天然酵母パン 白根屋 ちか子さん・あかなさんです。
天然酵母パン 白根屋 ちか子さん・あかなさん
体に優しいパンを提供したいという想いから、地元の農家さんが作っている小麦粉(地粉)と、小川町の季節の恵みから採取した天然酵母にこだわった、親子で営むパン屋さんです。パン屋を始めることになった経緯や原材料へのこだわり、また和紙の原料である『楮』を使用したパンについてお聞きしました。
ー 本日はよろしくお願いします。まず初めに、天然酵母のパン屋さんを始めた理由を教えていただけますか。
ちか子さん)いくつかあるのですが、まず小川町はとても食に恵まれているので、地元の農家さんが作られている小麦粉(地粉)で、体に優しいパンを提供したいというところが発端ですね。
あかなさん)あとは、母が体調を崩してから添加物について調べるようになったのもきっかけの一つです。例えば、シチューはホワイトソースから作ったり、プリンも生産者さんが分かる卵から手作りする等「だし」も1からとって調味料にもこだわっていくうちに母の体調も良くなってきました。やっぱり食って大切なんだと気づいたんです。そこで食材も出来るだけオーガニックに切り替え、安心・安全な天然酵母パンを作りたいと思いました。そして、本当のパンってなんだろう?という疑問から、もっと勉強したいと思い、教室に通い始めたんです。
— お二人で一緒に学び始められたんですか?
あかなさん)そうです。また、美味しいとうわさの天然酵母パンを、全国から取り寄せて二人で食べ比べてみました。沖縄から取り寄せてみたり、徳島のパン屋さんから取り寄せたり。 その方のお弟子さんが東京にいると聞いて会いに行ってみたり、群馬にも若い女性のパン屋さんがいるからと紹介してもらったり。
— 天然酵母パンにこだわって作られている方は、同じ思いを持つ方にとても協力的なんですね。実際に作り始めたのはいつ頃からなんですか?
ちか子さん)私は趣味で以前からパンを焼いていたのですが、天然酵母パンに切り替えたのは3、4年前ですね。 ちなみに、天然酵母を始めるきっかけを作ったのは娘なんです。
あかなさん)小学6年生の時に『有機野菜食堂わらしべ』さんで食べた天然酵母パンに感動して。「ママ作って!なんでも作れるでしょ!」ってお願いしました。
ちか子さん)もともと作るのが難しいということが頭の中にあったので、「それは作れないよ」って断っていたんです。 でも、いつまでも娘が言うので、これは何かあるのかなと思って。ちょうど夏休みに入るときだったので、自由研究も兼ねて、「自分で天然酵母を管理するんだよ」ってことで娘にやらせてみたんです。 毎日、酵母が入っている箱の中に温度計を入れて、どうしたら成功するのか、うまくいくには温度は何度がいいのか。娘なりにじっくり一カ月研究したんです。
あかなさん)天然酵母パンに出会ったのはその時ですが、パン屋さんをやろうとか、そういう思いは一切なくて、ただ単に美味しかったパンを作ってみたいという気持ちでした。
ちか子さん)そうそう。パン屋さんを始める気持ちはなかったんです。教室に通っていた時も、近所の知り合い数人とパン作り教室をやるくらいがちょうどいいかなと思っていました。 そしたらある時、喫茶店を開く方に出会って、「うちの専属でパンを焼いてほしい」と言われて、始めることになったんです。それが3、4年前ですね。
あかなさん) その時はまだ教室に 通っている段階でしたし、売ったこともなかったので、「これはもっと勉強しなきゃ!」とはりきっていましたが、その喫茶店が1年くらいで閉店してしまって、路頭に迷ってどうしようってなった時に、パンを買ってくれていたお客さんの髙橋美江さんが声をかけてくれたんです。『おいでなせえ』さんで月に一回でも販売したらどうですか?と、お店を運営する五十嵐さんにつないでくださったんです。本当にいろいろなことがあって、全てが今につながっていることに感謝ですね。

— すてきなご縁ですね。続いて、使用している材料について教えていただけますか?
あかなさん)小麦粉は『ぶくぶく農園』さんのゆめかおりと、『河村農場』さんの農林61号です。
ちか子さん)ただ、農林61号は中力粉なのでグルテンが少ない為、膨らみにくく本来パンには向かないのです。しかし、逆にグルテンが少ないので消化しやすく、地粉にはミネラルが豊富なので小麦のうまみや風味のある味わい深いパンになります。
あかなさん)一概には言えませんが、小麦アレルギーの方も農林61号だと症状が出にくい方もいらっしゃると聞いたことがあります。 なので、やはり日本人は日本の国土で長い時間をかけて育った地粉がいいと思っています。
— 地粉には難しさがあるけれど、そこに大きなこだわりがあるのですね。
あかなさん)そうなんです。あとは天然酵母にもこだわっています。酵母パンの店をいろいろ回ってお話しを聞いた時、それぞれ何の酵母を使うかはそれぞれのポリシーがあって、自分たちで決めていいということを知りました。 酵母菌は糖分を餌に活性化するので、糖分があると発酵しやすく、 果物はすごく発酵します。 他にも、もともと発酵している甘酒や紅茶も発酵しやすいので、安定して販売するためにそれだけを使う方もいます。
ちか子さん)ただ、自然界の草木や花についている酵母から採取しようとすると、これまた難しいんです。 酵母は気難しいので、ちょっと取り扱いを間違うとダメになってしまうんです。
あかなさん)私たちはハーブや果物が好きだねという話になって。 小川町は自然が豊かだから季節の酵母でやろうと決めました。

— 季節で酵母を変えるんですね。
あかなさん)そうです。今はトマトやブドウ、イチジクなど、ちょうど出回っている果物の酵母を使っています。 酵母を変えるだけで香りが変わるので、コーヒーと一緒に味わって季節を感じてもらえたらいいな、と。
ちか子さん)イチゴの苗の準備も、もう始めています。 自分達でできるものはバラ・ハーブ等は自然栽培で作っているんです。
あかなさん)他に季節の果物だけでなく、小川町の自然の恵みも味わってほしいので、旬の野菜、桜、金木犀、ラベンダー、ローズマリー、ミントなどのハーブも入れています。
— ちなみに、今日は和紙の原料である楮のパンがあるんですよね?
ちか子さん)和紙の原料にはならない本来は破棄する葉っぱの利用法はないかと問われて楮の葉っぱを酵母にしてみました。ちょうど栗が出始めたので栗とコラボしました。

— 使ってみて、いかがですか?
ちか子さん)葉っぱだから弱いのかなと思っていましたが、強い酵母ができました。 パンを食した瞬間「アルプスの少女ハイジ」に出てくる草のベッドに寝転んだイメージが広がりました。
あかなさん)かといって、青臭い!という感じではないんです。事前情報として栄養価が高いとは聞いていましたが、実際に発酵力が強かったので、やはり栄養価が高いのだと実感しました。果物も糖度が高ければ発酵力が強いのですが、柿やみかんなど栄養価も高い果物は爆発的に発酵します。楮の葉っぱも栄養価が高いから酵母も強かったのでしょう。
ちか子さん)まだまだこれから楮を使った計画があるんです。 あとは、ぶどうを自然栽培している方から、普段は捨ててしまうような部分をいただいて酵母を作ってみたいと考えています。
あかなさん)酵母はリンゴの芯や皮からも作れるんです。 実がないと絶対にダメというわけではないのです。
ちか子さん)草木染めをする方は、捨てるものをあえて染色に利用するらしいんです。 私たちも最後まで植物を生かし切ってみたいですね。
— 白根屋さんのこだわりにとてもマッチしていますね。今後の目標や、やってみたいことなど、ありますか?
あかなさん)今は大学に入り直したので、酵母について更に調べていこうと思っています。酵母には野菜や果物ごとにそれぞれ形があるらしいのですが、老舗のパン屋さんでも、「本日はうまく作れませんでした」と言って休業したりしているのを見て、目に見えない分、難しさを感じています。なので、もっと知識を深めていきたいです。
ちか子さん)あと、ゆくゆくは薪窯でパンを焼きたいんです。 実は以前に試してみたことがあるのですが、大変でした。 窯で焼くときは3時間くらい、薪をくべ続けるんです。そして、温度が高まると煤がなくなって、黄金色の天国みたいな美しい世界が窯の中に広がるんです。
あかなさん) そうなんです。それまでは煤で顔も真っ黒になるのですが、窯の温度が最高潮に達した瞬間、一気に煤が引いて、中に入ってみたくなるくらいきれいなんですよ。
ちか子さん)それから、薪窯の便利なところは、長時間熱を保持し続けるので、冬場はパンの発酵を電気に頼らないで釜の側で保温したり順番に強い火力が必要なものから焼いていって、最後にはケーキまで焼けることです。それからスープやシチューも鍋ごと入れておけばできちゃいます。
あかなさん)都内で薪窯を使っているパン屋さんでは、パンを焼き終わった後の窯に、近所の人が「お願いします」って持ってきた大きい鍋を入れて、温めてあげたりしているそうなんです。
— そんなこともできるんですね。地域も巻き込めますし、とても魅力的ですね。
あかなさん)そうなんです。パンを焼き終わっても、終わりじゃない。 小川町ならまきにも困らなそうですしね。

— ずばり小川町の魅力とは何でしょうか?
ちか子さん)自然栽培のお野菜が安価で手に入るところ。他の地域の方々が羨ましがっています。ああ、あと早春のヤマザクラと新緑の濃淡が重なり合う山の景色は圧巻です。
あかなさん)生まれたときから小川町にいるので、豊かな自然も当たり前のように感じていたのですが、一度県外に住んだことがあって、その時に「小川町ってすてきなところだったんだ」と気付きました。 季節をこんな風に感じられるのは普通じゃないんですよね。
— 離れることで気付くこともたくさんありますよね。では、最後に大切にしていることを教えてください。
ちか子さん)しかし最近は小麦が体に合わないと離れていく人もいます。地粉は昔から私たちが既にうどんや天ぷら、饅頭等でなじんでいるのです。同様に地粉のパンのうまみ、風合いも日本人の体質と味覚にぴったりだと思います。作る農家さんにも感謝ですね。
あかなさん)米粉のパンもいいですが、日本の地粉もあるんだよと知ってほしいです。そして、ぜひ食べていただきたいですね。
— 本日はありがとうございました!
●取扱い商品
季節ごとの酵母に合わせたラインナップ(シナモンロール、チョコパン、カンパーニュ、イチジクとナッツのフィグノワ等)
●出店予定
毎月第3 日曜日 @おいでなせえ小川町駅前店内(小川町大塚33番地1)
●営業時間
10:00~15:00(売り切れ次第終了)
https://www.instagram.com/shirane_ya/
とても研究熱心で、小川町と地粉への愛があるおふたり。「天然酵母パンを買ってくれたお客様の健康と幸せを願えることが、私たちの幸せ」という想いに感銘を受けました。
お店に入って一番に目につく看板やPOPは全てちか子さんが描かれているとのこと。温かさが伝わる絵柄が素敵でずっと見ていたくなります。
また、ロゴのうさぎは「うさFUKU」といって、ご先祖様が大事にしていた福助人形から着想を得た、白根屋オリジナルキャラクター。インテリアの担当はあかなさんで、おふたりでつくりだす世界観から感じられる柔らかい空気感とパンの香りに癒されること、間違いなしです。ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?
