ytv未成年感想①
※注意
ytv未成年1話〜8話時点までのネタバレと、勝手な個人解釈を含みます。(原作未読)
ytv未成年がすごい。
何がすごいってytv未成年がすごいのだ。
ytv未成年とは
ytv未成年、もとい未成年〜未熟な僕たちは不器用に進行中〜とは、ytv ドラマDIVE枠で放送されている12月期の深夜ドラマのことである。
原作は同名の人気韓国ウェブトゥーン作品。主演をEBiDAN派生グループであるONE N' ONLYの上村謙信、仮面ライダーガッチャードにて主演を務めていた本島純政が務めている。監督は「好きやねんけどどうやろか」「ゲキカラドウ」「鹿楓堂よついろ日和」の柴田監督。ジャンルは青春恋愛ドラマ(ボーイズラブ)作品だ。
冒頭に戻り、ytv未成年がすごいって何がすごいんだ? という話なのだが脚本・演出・音楽・俳優陣の熱意が視聴者にしっかり伝わってくる"丁寧に作られた作品"という点がすごい。
短尺の深夜ドラマとなると、人物描写に時間を割きすぎればロマンス部分が薄くなり、その逆もまた然りになりがち。ytv未成年はその点、セリフ一つ一つで根拠や裏付けをとり、物語に必然性を持たせている。
"大人と未成年"
大人になった今、大人とは? と聞かれると意外と答えられなかったりするのだが、自分の真面目な幼少期を思い出すと"偉大で逆らうべきではないもの"だと、漠然と思っていた。
ytv未成年においても、登場する大人は一貫して逆らえない(逆らうべきではないもの)存在=期待することを諦めるべきものとして描かれている。
<水無瀬と母親>
過干渉で放任主義というザ・毒親。子供の学歴はおそらく彼女にとってのアクセサリーであり、自分の汚点にならぬよう水無瀬に常に品行方正を求める。付加価値をつけたいが故に、本人の意思を無視して留学を選ばせるし、交友関係にすら口を出そうとする過干渉ぶりを披露する。
その一方、子供自身には一切の興味がない。自親子の時間を取ることはなく、時たま日本に帰ってきてもすぐに旅行に出てしまう。夕食を用意しても自分の酒のあてであることを重視しており、水無瀬の健康を気遣ってのものではない。
美しい家具が並びながらも、その全てに不気味なほどに生活感のない水無瀬家はこの親にしてこの家あり、といった感じがする。
(6話で母親に適当に話を合わせるように頼まれた水無瀬が「そういうの慣れてる」と答えるあたりにも家庭環境が伺えて辛い)
<水無瀬と父親>
話が伝わりそうに見える水無瀬の父についても、優先順位は仕事>家庭であり、
・息子からの電話には出てくれない
・蛭川の感想を聞いてあげてほしいという願望より仕事を優先する
と、"息子の願望は叶えてくれない存在"として描かれている。現実世界で考えると大したことのないすれ違いながらも、短尺ドラマで息子に取り合ってくれない姿を2度に分けて描いているということは日常でもおそらくそうであるという暗喩なんじゃないか。
<蛭川と母親>
一見親身に見える蛭川の母についても、蛭川にとって誠実な人間としては描かれていない。
・「ここに住みたい」という直球のSOSを聴き逃してしまう。
・ヤンチャをしていた蛭川の父と結婚した経験があるというのに、自分の弁当を食べる息子の"人を殴ったことのない綺麗な手"に気が付けない。
・蛭川と父の親子仲を良好と誤認していたはずなのに自分の家庭を優先し、急に父を亡くした蛭川をひとり寮へ送り出してしまう。(これは蛭川側の気遣いもあるだろうが)
2話で「酷い母親だな」「そんなこと言うなよ」と当人たちがやりとりしていた通り、蛭川の母親は"蛭川を救ってはくれない存在"だ。
<蛭川と父親>
言わずもがなの逆らえない大人代表。酒に酔っては殴り、蛭川家を支配する圧倒的権力。
ただ、このytv未成年のすごいところは、蛭川父を天災のように突発的で、理屈が通じないものとしては描いていないところにある。というのも、
・蛭川母の昔から不器用でヤンチャをしていたという発言により、蛭川父の未成年時代における感情の発露方法が暴力という形だったことが伺えること。
・7話で帰宅時に酒瓶は持っていながらも、帰宅時には飲酒しておらず、停学になった蛭川を大人として嗜め、対話を試みようとしていたこと。
・「やられたらやり返せ」「教師はあんなことで呼び出してくるから……」と、自分の学生時代に照らし合わせ蛭川に共感を得ようと思ったものの、蛭川の反抗的な視線に傷ついた顔をすること。
上記を合わせて見るに、自分が試みたコミュニケーションがうまくいかなかった→その次に取るコミュニケーションが思い浮かばず、恥ずかしさや傷つけられたプライドが許せなかった→自分の主張を正当化させるために酒により気を大きくする→正当化させるために暴力による支配をとってしまう。と、むしろ行動原理はかなりしっかりと描かれている。
物語の予定調和のために描かれた絶対悪ではなく、子への接し方がわからず悩む父。等身大で、どこにもいて、手段が悪かっただけの父親なんだなあという印象を受ける。(蛭川からすれば絶対悪だが)
余談になるが、蛭川側の人間はコミュニケーションが下手くそだ。蛭川自身の内面に焦点は当てておらず、"同じグループに所属しているから蛭川かことは理解している"と思っている(7話の父にしかり、真島にしかり)蛭川が求めているコミュニケーションは同じ属性を持つ人間ではなく、水無瀬のように対面で向き合ってくれる関係性なのだが。
そんな親達の元で育ったがために、水無瀬は蛭川が虐待を受けていると知っても通報などできずにその場を立ち去ってしまうし、蛭川は父親同様に暴力を振るってしまいかねない恐怖に怯えてしまう。
親のほかにも、女子生徒にセクハラまがいの生徒指導を行い、蛭川に冤罪を、水無瀬に口封じを行う教員。7話で酔った父親から逃げ、裸足で街を放浪する蛭川に声をかけてくれない大人たち。
蛭川と水無瀬にとって大人は頼りになるものではなく、むしろ期待しても無駄な存在。大人たちのせいで期待できるものではないが故に子供は子供の中だけで問題を解決せざるを得ない。
けれども、未成年である彼らはいくら煙たかろうとも、期待できなかろうとも、大人の存在がなければ学校には行けないし、住居はないし、飯すら食えない。
ytv未成年における大人と未成年はそんな不条理な関係性として描かれている。
"真島という男"
ytv未成年では大人が不条理な関係性として描かれている。と書いたばかりではあるが、それは物語の主軸である蛭川と水無瀬に対してであり、例外はもちろんある。
ここで真島について触れたい。
直接的に真島という男について描かれるシーンは少ないが、登場人物のセリフによるものからうかがえる。
・蛭川に憧れている(1話で他校の女子が蛭川のことを気になっているという話をしていた時のそぶり ほか)
・家族がおり、家族と住んでいる人である(2話で蛭川が自分の周りには家族と住んでいる人しかおらず、泊まり先がないという話をしている)
・蛭川と出会う前はタバコを吸うような人ではなかった(柴と根本の会話)
・悪いことは全て蛭川がおしえてくれた(真島)
以上から真島は蛭川への憧れにより半グレの道に踏み込んだ、ちゃんと親がいる家庭の子ということが登場人物のセリフから読み取れる(すごいよytv未成年)
真島は蛭川の対人関係においての対比によく使われる。
真島 ↔︎ 水無瀬
真島と水無瀬はどちらも蛭川に導かれて蛭川との関係を育む人物でありながらも、蛭川と道を違えてしまう真島と、感情の奥底に触れることのできた水無瀬と結果は真逆だ。
蛭川にとって、真島との関係はおそらく、自己犠牲・自傷行為の一環=常に居場所を求めて、寂しくて満ち足りない感情や、満たされないことにより溜まった苛立ちを同じ方向に吐き捨てる同伴者的な存在。都合よく自分に憧れて、都合よく隣にいた存在の一人だ。
蛭川から見た真島は多分互いに向き合ってはいない。真島側からしても蛭川に抱き求めていているのは憧れ、それに付随する刺激であり、真島は無自覚に蛭川の内側に触れることを拒んでいる。
水無瀬に対して蛭川は、おそらく最初から、水無瀬の抱えている寂しさを嗅ぎとっている。そして、それに共感し、心惹かれるものがあったのではないか。蛭川の中で大人に対して抱いた絶望感(家庭の価値観)は重要で、その価値観が合わさって初めて向かい合うことができるのではないかと思う。(ロマンスドラマなので一目惚れも大きいだろうけども)
真島家 ↔︎ 蛭川家
話数が進むごとに、水無瀬と出会った蛭川は少しずつ変化。それに比例して、真島は蛭川に求めている刺激が得られなくなってゆくことに、苛立ちを覚えてゆく。そして、6話ではとうとう万引き事件を起こしてしまう。
真島に道を踏み外させた蛭川は真島のことを庇って、万引きの指示をしたと教師に嘘の供述をする。結果として、2年の半ばにして真島は蛭川と共に停学。後日柴と根元の会話により「真島が転校した」という情報が語られる。
「悪きは騒ぎ立てる教師であり、やられたら舐められないようにやり返せ」と発破をかけ、子の将来を見据えた考えは一切ない機能不全家庭の蛭川家。それに対し、進路を目前とした2年半ばでおそらく「自分の子供の将来を案じ、更生のために転校をさせてくれる親」がいる家庭である真島家がここで対比される。
大人は絶対的な存在であり、すべては大人が決める事。それは真島にとっても、同じではある。それでも、真島により違いを描くことにより、蛭川や水無瀬の世界の異常さ不条理さを際立たせているように見えた。
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蛭川と水無瀬について