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ytv未成年感想②

※注意
ytv未成年1話〜8話時点までのネタバレと、勝手な個人解釈を含みます。(原作未読) 



※前回
 内容:ytv未成年における大人と真島くんについて

 前回の内容も踏まえて、本題を書きたい。

オレンジの片割れ

 同性との恋愛を主軸にした映画を挙げると、必ずほど出てくるのが「君の名前で僕を呼んで」だと思う。初めはなんで君の名前で僕を呼ぶんだ、と思ったものだが、どうやらスペインのことわざ「オレンジの片割れ」をモチーフとしているらしい。

オレンジの片割れ

「人間は『男-男』『男-女』『女-女』が1組1人になっていて、あるときゼウス神が人間への怒りにより真っ二つに引き裂いてしまい、人間は不完全なものになった」(中略)それ以来、人間は、失った「片割れ」を探し求め続けることになりました。
※諸説あり

出典:創元社「翻訳できない世界のことば」

 エリオにとってのオリヴァーはまさにオレンジの片割れであり、相手のことを自分の名前で呼ぶことにより、"ひとつのオレンジ"に戻ろうとしているのだという。(オリヴァーらしい愛情表現だと思う)

 話が逸れたが、この「オレンジの片割れ」の概念はytv未成年にも意識されている。ytv未成年においては、オレンジではなく、水や液体により表現されている。「君と僕との境界が溶けて一つになればいい」という水無瀬のモノローグは、まさにそれだ。ytv未成年において、蛭川と水無瀬は(主に水無瀬が)度々一つになろうとしている。
 加えて、2人のキーアイテムであるアイスバーは棒が2本付いた1組を2つに分けるものであり、「オレンジの片割れ」を匂わせているようにも思う。


2人を繋ぐ水

 ytv未成年におけるキーアイテムは「オレンジの片割れ」やアイスバーだけではない。水がかなり重要なアイテムになっている。基本的に水無瀬の家以外の、水無瀬と蛭川を繋ぐ場所には大抵水の表現がある。

・2人が仲を深める公園
・学校の屋外水道
・プール
・海辺の近くの蛭川母の家

中でも学校においては、水のある場所でしか会わない(会えない)という徹底ぶりだ。また、1話水無瀬のモノローグにおいては、「それぞれ住む海は分かれていて、水が交わることは決してない」と表現していることから、水無瀬と蛭川は魚であると示している。(8話においても自らを魚と表現している)
 なお、シーンによれば水の量というのも、2人の心理状態を表現する上でかなり重要なキーポイントとなってくる。(満ちた海の中、空っぽの学校のプールなど)シーンごとに語りたい部分はあるのだが、まず先に水無瀬と蛭川という男に触れたい。


水無瀬仁という男

 蛭川が引き継いだ(と思っている)のが父親からの暴力性という呪いだとするのなら、水無瀬が引き継いでしまったのは無関心という呪いだ。水無瀬は基本的に他人に対する興味がない。自分に興味がない母親からの言葉へ、適当に返すという家庭環境で育っているからだ。

 非家庭的な家庭で育っているが故に、水無瀬の家の中には生活感がない。中でも、食事についてが印象的だ。水無瀬においての食事の表現はあまりなく、珍しく表現されている1話(母による酒のあての食事)、4話(熱を測りながら食べるカロリーメイト)においても水無瀬にとって好意的で家庭的なものではない。買い物袋を下げる水無瀬の描写は度々されていながらも、その大きさ的に食材が入っているようには見えず、水無瀬の食事は既製品に依存していることがうかがえる。

 蛭川と関わる前の水無瀬に、「他者への関心」「家庭的」という要素はない。
 けれども、1話から頑なに水は交わらない。と言い続けていた水無瀬も蛭川と関わることにより、少しずつ変化してゆく。

蛭川晴喜という男

 一方、蛭川は「家庭的」という要素を母親から引き継いだ男だ。幼少期はそれなりに幸せに過ごしてきたことが、蛭川家に残る家庭的な面影(家に残る写真や家事をする蛭川の描写)からうかがえる。ただし、「お前は本当に俺の子か、違うかもしれないのか」と言い殴る5話の父親のシーンに、2話の「親父と別れて割とすぐに再婚した」という蛭川の発言により、離婚理由が母親の男関係だということが匂わせられている。

 そんな人から見れば"酷い母親だ"と言えるような母親のことを、蛭川は愛して(存在を心の支えにして)おり、出ていった母に父の暴力の手が及ばないよう、自分の本音や心を殺して防波堤になる心根の優しい不器用な男だ。そんな自分を、映画「水の音」の苦しみの波に飲まれないように海に残って見張る"水際の少年"に自己投影している。故に、「水の音」に深い思い入れを持っている。

 人間は誰しも自分の中に愛情をストックするバケツを持っている。幼少期に親からの無償の愛を受けてバケツに愛情を満たした上で、ようやく他者に愛情を注げるものだと私は思っている。そして、自己の愛情が満たされた上で、他者へ愛を注げ、自分の居場所を確立する。

 蛭川は中学生期にはすでに父からのDVを受け始めていた。(5話の過去回想で学ラン姿で殴られている描写がある)中学校といえば、高校以上に学校-生徒間のつながりが深いものだ。DVが露見しようものなら関係機関で協力しあって、時には父親の元から離されることもある。が、父親から離されることもなければ、母親はDVについて知らない。
 すなわち、どうしても母親に迷惑をかけたくない蛭川によるDV隠蔽は、中学時代から始まっており、DVの事実が学校側に明るみになっていない可能性が非常に高い。わざと悪目立ちしやすい見た目にし、自分の怪我はケンカによるものだとアピールしていた可能性すらある。自分を捨てていった母親を守るために。
 当時中学生の蛭川が大人に助けを求められず、また大人側からも気付かれないのはどれほど絶望的だっただろう。

 そんな状況では、母に満たしてもらった愛情のバケツの愛情は、充分には満ちたりなかったのではないだろうか。実際、蛭川は自分の居場所(存在)を探している人だ。暴力を振るってくる相手ながらも、心底では父親にすらも自分の居場所であるように求めようとしてしまう人。

 そんな日々の中で出会った、同じく"無償の愛を正しく受け取れなかった"寂しそうな水無瀬へ「オレンジの片割れ」を感じたのではないだろうか。
1話から一貫して、蛭川は水無瀬が自分の居場所になり得るかを試しているように見えた


蛭川と水無瀬

 蛭川と水無瀬が共通点(父親からの暴力を目撃したシーン)を持った時点で、すでに蛭川は水無瀬へ好意を抱いていたことを5話のモノローグで語っている。というか、2018年9月の水道から水を浴びるシーンの際に、おそらく一目惚れしている。

 本来ならば、水無瀬の言う通り住む海は交わらないはずなのに、皮肉にもその海を繋げたのは蛭川の父親からのDVという秘密の共有項だった。蛭川はこの共有項を使って水無瀬との結びつきを固めていくようになる。(これは、「無関心」の家庭で育った水無瀬相手でなければ成立しない秘密の共有項なのだが)

 水無瀬は俺の居場所になってくれるのか? という蛭川の「試し行為」は1話から始まっている。

・水を飲ませて欲しいとせがむ
・傷に湿布を貼り替えて欲しいとせがむ
・キスを試してみようと言う
・トイレで手を洗う水無瀬の手に触れる

などなど、全て「どこまで許してくれるだろう?」を確かめている。蛭川が欲しいのはここにいていいと、こうしていいという許しだ。だからこそ5話のラストシーンで、「学校ではやめろ」とキスの許しを得た蛭川は喜んでいたのではないだろうか。


 長くなったため、次回は4話からシーンごとに感想を書いていこうと思う。

next→4話感想


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