不明瞭な君。
三歩先も見えない地平線の彼方で、彼は遠く笑った。笑った、ような気がしていた。そんな雰囲気があった。……それは、確かなことだっただろうか。
黒い靄のような、逆光にも似たそれが彼の顔を覆い隠す。靄が現れる前の彼の顔は? ……笑っていた、はずである。
──本当に?
わからない。笑っていたかも知れないし、そうでなかったかもしれない。朧げなそれは、明確な形式を持って私に理解を促す。頭が朦朧としていた。
ふと、何処かに橙の温かさを感じさせる。懐かしさなんて微塵も脳裏によぎらないほどに親しみを持ったそれを、私は次の瞬間には既に寸分の違いもない正確さを持って把握している。
太陽だ、と思う。瞼の裏で視認する、皮膚を隔てた薄暗い温かさ。それが持つ答えを知っていたから、私は目を開いた。
夜が明けていた。随分と、長い夢の中にいたような感覚がある。……何の夢だった? 思い出せない。それでも胸の一番柔らかい部分で、愛しさに触れていたような気がしないでもない。ただの迷夢、だろうか。
そうであればいい、と思う。誤謬、謬錯、錯誤。どれでもいい。その類でさえあれば。夢の温かさを思い出しても、現実への落胆が重みを増すだけなのだから。
地球が太陽の周りを自転しながらに規則正しく漂っているから、日は昇るし夜は明ける。巨大なそれは、私個人の心境では止まってくれない。いくら彼がいなくなった世界で私が悲しみに暮れようが、幸せに溢れる世の中を妬もうが、赤の他人にとっての私の事情など、私にとっての赤の他人くらいに瑣末なものだ。それでも、そんな世界が時々死にたくなるほどに憎くなる。
だから、思う。彼のことを想う。思えば思わるる如くに、その不確かな祈りのようなものを信じ、只管に彼を偲ぶ。
君は、いまどうだい?
君を想う。
私はね、消えてしまいたい日もあるよ。
私は思う。
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