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バイナル・ディストーション 第1話
はじめまして
AIに関連したことを中心に様々なことを発信していきたいと思っています。
手始めにAI小説にチャレンジしてみます。
まずはニューロマンサー風サイバーパンクSFです。
バイナル・ディストーション
空にはいつも霧が漂い、都市の神経はその中で腐りつつあった。
海と港に挟まれたこの場所は、軍港都市という名にふさわしく、古びた建物と新たなテクノロジーが入り混じっている。だが、ここに漂う霧は、単なる気候や湿気のせいではない。データが流れ、情報が密かに交わる「クラウドミスト」がその街を覆っていた。霧は都市そのものの「神経」にも似て、情報と人間が融合し、また消費される。
街のネオンがぼんやりと光り、その下で一人の男が歩いている。背中に龍の刺繍が施されたジャケットが、暗闇の中でもひときわ目を引く。レン・カネシ。彼の脳内には、高度なAIが埋め込まれている。そのAIは彼に並外れた計算能力を与え、未来を読み取るような力をもたらしたが、同時にその負荷は彼の脳に異常を引き起こし、苦痛を伴う日々が続いている。
レンは細く息を吐き、後頭部にあるジャックに手を当てる。コードが繋がる感覚とともに、電子コカインが脳内に注入される。冷たい感覚が脳を包み、短い間だけ安堵が広がった。だが、それも束の間。再び頭の中で情報が暴走を始める。AIの言葉が響く。
「お前はそれを求めている。」
その言葉を無視することはできなかった。レンは、あの「霧の核」を追い続けている。霧の核とは、誰もが手を出さない危険な情報の源。それにアクセスすることで、レンは今後の未来を変える手がかりを得られると信じている。しかし、その先に待ち受けるものが何なのか、彼にはまだわからない。
バーの奥に入ると、薄暗い空間が広がっていた。義肢をつけた男たちがカウンターに座り、囁くように話している。ここは横須賀の裏社会、情報の取引が密かに行われる場所だ。レンはその中に紛れ込み、目的の情報屋を探す。
「ナイン・エイト・ゼロ」と呼ばれるバーの奥に、彼を待っている男がいた。カズマ。義眼を持ち、視覚を強化した男。彼は常に情報の先を読んでいる。レンがカウンターに近づくと、カズマは静かに目を合わせた。
「また来たか、レン。」
「これを。」
レンはポケットから端末を取り出し、カズマに渡した。端末には「霧の核」に関連するデータが含まれている。それを手にしたカズマは、少しだけ唇を歪めた。
「霧の核に手を出したら、何が待っているか知ってるか?」
「俺はそれを追ってる。」
「お前もか…。あれは…ただの情報じゃない。」
「何だ?」
「霧の核は、ただのコードじゃない。そこには、過去の記録や、消されたデータのフラグメントが含まれている。それを掴んだ者は、未来を操れるとも言われている。」
レンの中で何かが響いた。その言葉は、ただの伝説や噂ではない。霧の核には、彼が求めているものが必ず含まれていると確信していた。
「それを手に入れれば、どうなる?」
「それは…お前が決めることだ。」
「場所は?」
カズマは一瞬だけ目を閉じ、低い声で答えた。「この先、港の方に廃工場がある。そこにアクセスするための暗号があるはずだ。」
レンは黙って頷き、カズマから離れた。情報を手に入れた今、次に待っているのは無謀な冒険であり、危険を伴う道だ。しかし、レンは一歩も引くことなく、その先へと進む決意を固めた。
霧の中で、未来を掴むために。