光跡 (冒頭)
「あんたなんか、産むんじゃなかった」
二十歳の春、悠人(ゆうと)は、ふと思い出した母の言葉を胸に、窓の外を見つめた。
それは、数年前に一度だけ、母親から投げかけられた言葉。
決して温かいものではなく、まるで冬の寒風のように、悠人の心に突き刺さった。
それ以来、悠人は自分の存在意義を問い続けてきた。
好きなことはたくさんある。
音楽を聴くこと、本を読むこと、友達と話すこと……。
それでも、あの言葉は、彼の心の奥底に暗い影を落としていた。
「自分は、生まれてこなければよかったのか?」
そんな自問自答を繰り返す日々。
どこに答えがあるのだろうか。
探しても見つからない。
考えてもわからない。
そもそも、答えなんてあるのだろうか。
堂々巡りだ。
どこまでも続く深い闇の中に、一人ぼっちで投げ出されているみたいだった。