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「走るか、走らないか」。。。フジテレビとガイナックスでの話

 僕は18歳の時、『フジテレビ・ヤングシナリオ大賞』というコンテストで佳作になったことがある。

 その時の大賞が野島伸司氏であり、僕が得票数で2位だった。

 今となっては順列なんてどうでもいい。

けれど「表現する」ということで言えば、僕は野島伸司氏がやっていることとは対極にあると言っていい。

僕は彼のドラマに同調できなくて、ずっとその反対側の可能性を追ってきた。

その結果、今の僕があるようなもんだ。

そういう意味では彼にはとても感謝している。

いささかひねくれた感謝ではあるけどさ。

(しかしあれだけ偉大な方の2位っていうのはタフな体験だよ。トラウマだよ)

 僕と野島伸司氏の違い。

 それはコンテストの受賞の席から明らかだった。

 当時のフジテレビの第1制作(ドラマ制作部門)には『北の国から』のプロデューサーであるYという方がいて、僕の脚本を読んで助言を頂いた。

「どうして別れの場面に走らないの?」

「え?」

「恋人が電車に乗って去っていくわけでしょう? どうして残される彼女が電車を追いかけて走らないのか?」

 僕はしばらく考え込んだ。

「だって実際走ります? リアルじゃないから走らない」

「ふむ」

 会話はそれだけだったと記憶している。

でもこの会話はその後ずっと僕の心の井戸に沈む石のような存在になった。

 確かにY氏のドラマを観ると、「別れのシーン」では必ず走るんだ。

「北の国から』でも蛍ちゃん(中島朋子)が彼氏(緒方直人)と別れる時、走る。

雪道を全速力で走る。

遠去かる列車。

手を振り続ける蛍ちゃん。

そこに長渕剛とか尾崎豊がかかる。

 当時の僕はその場面を見て納得できなかった。

 その「走り」を見て、世代の差を感じた。

逆に冷めてしまう。

「そんなわけないじゃん」と言って、ドラマそのものに入り込めなくなる。

ドラマが急に現実のパロディーみたいに感じて、それを承知で観ているような「屈折」を感じる。

 でもY氏の立場もわかる。そこでいかに「泣かせる」かが重要なんだろう。あるいは「感動させるか」。

 そこのところをうまく自分の表現にしたのが野島伸司氏だし、それができない僕は当然テレビの世界からお払い箱になった。

 僕は今でも探しているんだと思う。野島伸司がやった「走る」表現をしないこと。

「走らない」で、しかも「同じくらいのエモーション(感動)」を描く方法を探すということ──。

 どうすればいいんだろう???

 今でもそれを考え続けてきた。

(もちろん僕の小説も走るようになりましたが、最初はこの疑問でした)

 ※

同時期のことだ。

僕はガイナックス(初期のエヴァ制作アニメスタジオ)にも通っていた。

そこでは以前、「王立宇宙軍 オネアミスの翼」が作られた。

僕はやはり彼らより10も年下であり、仲間というより、またいるな、という感じの青年だった。

(いやー、これも大変な体験だよ。ただの青年があのなかにいるんだ。もはやアイデンティティ保てないです)

しかし確信していた。

彼らこそ、次世代を作るのだ、と。

僕が注目したのが、この「王立宇宙軍」の主人公、シロツグは人類初の有人宇宙飛行士になるわねだが、そのなかで、ヒロインとの電車での別れのシーンがある。

ふたりは駅でお互いに気づき、なんて言っていいかわからず、「あ・・・」となったあと、シロツグは(死ぬかもしれないというのに)「行ってきます」と言うだけ。

ヒロイン、リイクニも「いってらっしゃい」と言い、電車は動き始める。

なんでもなく、ただ挨拶のみのお別れのシーン。

やはり違う。

しかも僕もやがて、若い時のこだわりもなく、ただ、「北の国から」の蛍ちゃんが走ると、泣いてしまう。

ドラマというより、人が走っているという場面の凄い演技に、ただ泣いてしまうようになった。

子供が生まれ、親もやはり歳をとり、だんだん当たり前にそうなっていったんだろう。

しかし、時は過ぎた。

エヴァンゲリヲンの「破」を見た時、僕はあまりに感動した。

遂に走る!

そう! エヴァンゲリヲンが走るのだ!

この走るだけのエヴァンゲリヲンはその重量感、躍動感、壊れて行く地面、青空、緊張した場面、そしてただ走るエヴァンゲリヲン!

走る!

もちろん、登場人物は走らないです。

ロボット(ホントは、違う)なら、走っても、もう僕も、走れ! そして見事に走る! アニメーションは(動く)という意味があり、これぞ、アニメだ。

僕にとっての「走るか、走らないか」というのは、表現の分岐点である。

(エヴァについてはよく制作現場は存じ上げず、知っているのトップをねらえ! あたりまでとなります)

エヴァの最高なのは、ただ走る、シーンだ。

さて、今は病院の待ち時間だ。

ソーシャルディスタンスを取りつつ、歩いて帰ります。

とぼとぼ。

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