つかれたって言っていいよ
「あんたがアルバイト始めても、絶対に疲れたって言わせないから!!」
鼓膜が破れたかと思ったくらい耳がキーンとした。
気づいたときには彼女の目は吊り上がり、まるで前世からの憎き相手を見つけたかのような顔でこっちを見ていた。
「やってしまった。」
そう思った。
たしか話の流れで、仕事と部活どっちの方がキツイかって話題になったんだ。
「部活の方が体力的に疲れるよー」
と言った私の言葉が彼女の癪に触ってしまったらしい。
いや、癪に触ったというよりも傷つけたのかもしれない。こんなことでヒステリックが発動すると思わなかった。
地雷はいつでも私たちの見えないところに潜んでる。
「え?今すみれが言ったことそんな怒るようなことだった?」
という第三者の声も彼女には届かず、近くにあったハンドバッグを乱暴に引っ掴み、家を飛び出して行ってしまった。
まぁ、3時間後には帰ってきたんだけど。
この言葉通り、私はアルバイトを始めてからも、留学へ行った時も、社会人になってからも疲れたって言った事は一度もない。
だから何だってわけでもないんだけど、さ。
なんとなく、さ。
今でもあの言葉を思い出すと、心臓に注射針を刺されたような気持ちになって、じんわりと誰かに言う程でもない鈍痛が広がる。
なんであんなナンセンスな話になっちゃったんだろうな。ほんとおばかだよな。
きっと彼女はあの時のことを覚えていないと思う。むしろ覚えていなくていい。そのままお互い踏み合ってしまった地雷の数々も、全部まとめて忘れてくれ。
全部忘れて、笑っていてくれ。
なんてね。
written by: 美波すみれ
↑ツイッターに飛べるよ
※美波すみれが書くエッセイは事実を元にしたフィクションであり、
そもそも全てがフィクションである可能性も大いにあることをここに記しておきます。
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