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プロスカウトを断り引退した話

大学に入り、社交ダンスを競技化した「競技ダンス」をやるサークルへ入りました。今だから言える話。踊っている先輩たちを見て「かっこいい!」と思ったのではなく、「このレベル感なら私もチャンピオンになれるかも」と思い入部しました(若気の至りです)。

その思い込みのおかげで良いライバル、良いパートナー、良い恩師に出会い、学生時代はブロックのチャンピオンになれ、卒業後も社会人やりながらアマチュアとして全国を飛びまわるうちに、色々な所に招待してもらいお金を稼げるようになりました。

そんなことをやっているうちに、「紹介してあげるからプロになったら?」とお声がかかったのです。

紹介される先は東京のスタジオでした。そこの先生はダンスをしてる人なら知らない人はいないであろう大御所。『三笠宮杯』というアマチュア最高峰の競技会で自分たちを審査してもらった事もあります。九州の田舎っぺの私は嬉しさで鳥肌が立ちました。

ただ、迷いもありました。

アマチュアとしてやりたいことがまだまだ沢山ありました。そもそも、卒業後すぐプロにならずアマチュアでやるという選択をしたのは「仕事しながらでもダンスはできる」ということを発信したかったからでした。

競技ダンスはパートナーがいなければできないため、社会人になるとどうしてもお互いの都合がつかず、フェードアウトする人が多いです。私自身も両立に苦労しました。働き方改革が始まる前でしたから、サービス出勤、残業は当たり前。定時の概念がないためレッスンは22時から入れてその後終電まで練習。週末はおもに競技会。九州開催は少なかったので大阪東京へも遠征し、終わってから夜行バスに飛び乗って翌朝そのまま会社へ...という日もありました。

それでも「仕事くらいで好きなこと諦められんわ!」という自分のプライドと、「もっとアマチュアが増えてほしいなー、競技会もっとライバルほしいし...」という考えで結構頑張ってました。

しかしながら、私の恩師が「ダンスは引き際が大事。歳をとって見た目も悪くなってくるから、アマチュアでダラダラ長くやるよりはスパッとやめてしまった方がいい」と言っていたことがずっと頭にひっかかっていました。当時25歳。アマチュアの全日本ランキングの中では年を取っているほうでした。ファイナリストはみんな10代でしたから...。

私には女性としての夢がありました。

30歳までにはダンスをやめて結婚して子どもが欲しい、お母さんになりたいなあと思っていました。

女性には人生に「出産」という選択肢があり、時にこれが、道をどう進むべきか迷う原因になります。

25歳の女が30歳までにトッププロに成り上がり、華々しく引退できるか?

答えはノーです。絶対に間に合わない。元々才能がある人ならともかく、しゃかりきにやって結果が出ていただけの凡人。ここで「私は絶対にやってやる!!」と現実から逃避して夢だけを追いかけるには、もう若くありませんでした。

出産を経て、母親をしながらダンサーとして活動する人もいることはいます。ただ、それは実家なり所属している教室の他のスタッフなり、周りの協力が必要不可欠。周りを頼ること前提の母親兼ダンサーにはなりたくありませんでした。

自分自身の健康上の不安もありました。PMSが酷かったこと、鬱の既往歴がありそこから発症してしまった自律神経失調症が完治していなかったこと、消化器や心臓の不調...エトセトラ。今思うとまあよく踊れていたなという感じ。通院もしていましたが、毎晩の練習による慢性的な睡眠不足からの不調を指摘され、「ダンスやめないと治らないよ」といつも叱られていました。

天秤にかけて考えました。

プロダンサーとしていつ達成出来るかわからない夢のために上京するのか、これまで一生懸命積み重ねてきたものを捨てて女性としての幸せを追いかけるのか。

私は後者を選びました。

辞めると決めたのは自分でしたが、ダンスをしなくなった喪失感は凄まじいものでした。ジャンルは違えど5歳からずっと踊ってきた、大好きだった、あんなに頑張ってきたのに、やっと結果が出てきたのに...毎日毎日涙が止まりませんでした。しかし、パートナーシップを解消する=引退、の選択肢しかありませんでした。これほど熱量をかけて頑張れたのは、学生時代から組んできたこの相手だからこそ。新しい相手とまたゼロから積み重ねていく気持ちにはどうしてもなれませんでした。

立ち直るにはわりと時間がかかったと思います。

ダンスをやめて間もなく結婚し、夫と過ごす日々が少しずつ、ぽっかりとあいた心の穴を埋めてくれました。そして28歳。出産という経験をして、母親になりました。

私がそんな生き方をしている間、同時期に頑張っていた選手が良い結果を出したり、後輩だった子がプロになったりと色々ありました。

私がプロになっていたらどうなっていただろう...と今でも時々思います。

でも、ダンスから離れて気づいた幸せもたくさんあります。仕事を終えて家事をする幸せ、ご飯をゆっくり食べる幸せ、好きな人と過ごす予定のない休日の幸せ。

「頑張る」ことにも、人それぞれの「終わり」ってあるのだなと思います。

多くの人は悩む人に対して、やりたいことなら頑張れ!と言うと思いますが、私はあえて、頑張ることを終わる、という選択を提案したいです。

悩むのならばやめる。本当に心からやりたいことだったとしたら、どんなに大変な状況下でも、そもそも悩みませんから...

と、ブラック企業勤めでダンスを頑張っていた過去の私が言っています。

「社会人ダンサーが仕事と趣味を両立して脱サラ!」なキラキラ記事じゃないけれど、こんな生き方もあったのだという自分の記録として。




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