田舎暮らし狂想曲
2月に夫の実家へ引っ越した。車がないと何もできないような田舎だ。
私はペーパードライバーで在宅勤務。結果、自宅にいる時間が圧倒的に増えてしまい、それはそれで不健康だと思い始めた。
「何か楽しみを見つけたい」と思ったときにバイトを探すのがルーティンなのは、東京にいたときの名残だ。タイミーに登録して、3時間だけ、おしゃれカフェで働いてみることにした。
◇
日曜夕方、あんまり混んでないといいな。お店に着くと、やけに活気がある。おばちゃんから受付を促された。何かの会場になっているらしい。
「バイトです」と言いながら、カウンターの中にいる店長に「タイミーから来ました」と声をかける。
この「タイミーから来ました」というのは、アプリで事前に指示されていたフレーズだった。コミュ障でも安心なアプリだなと感心しつつ、名前を名乗ることもなく、カウンターの中に入り込んだ。
話を聞いていると、男女12人ずつの婚活パーティーの会場になっているようであった。
続々と参加者たちが受付を済ませていく。婚活パーティーに参加している女性たちは、見た目の印象だけだが、皆綺麗で、しっかりしていそうな人ばかりだった。一方、男性陣はというと、服装や髪型だけでも気を遣って来れば、この会場の覇者になれるのに。と思う全体感だった。
頭の中では、「東京の婚活パーティーだったら、女性だってメイクばちばちだよね、きっと」と妄想していた。もし私がこのパーティーに参加するなら、濃いめのリップに黒のスケスケワンピースで、髪もセットして来るだろう。そして、婚活が目的ではないのなら、私が楽しむのはゲーム。純朴そうなメンズから、どれだけ多く私への票を集めるか……。
実際の婚活パーティーは、1対1のトークタイムに奪い合いが起きることもなく、2巡目のトークタイムもほぼシャッフルもないままに終わるという何とも和やかなものだった。
結局数組、両思いが誕生していて少し感動さえ覚えたのだが、前に並ばされてペアの食事券を受け取る女性の気まずそうな表情が脳裏に焼き付いている。
◇
婚活パーティーに参加したことはないけれど、初対面の人と話すのが好きな私にはそういう場は合っていたのかもしれない。いや、人を商品みたいに見て恋愛するのが嫌だったんじゃないか。じゃあ恋愛の絡まない合法ちやほやチャンスがあるところならいいのか。
深夜副業はめちゃめちゃに本業に支障をきたすことは経験済みなのだが、私はスナックで働いたほうがいいのかもしれない。ゴールデン街が恋しいなと感じながら、どこか自分が楽しめる場所を探している。
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