行政書士の相続業務の研修講師をしていての雑感(2022年11月)

ここ何年か、秋に大阪の行政書士会の各支部で相続業務についての研修講師をしています。旭東、淀川、西、等で講師をさせていただいて、今年は枚方支部で講師をしています。(手帳みたら10年間毎年やってました。)

今回の枚方支部の研修では担当の澁谷先生のご尽力により、3回にわけて研修をさせていただいております。戸籍、相続関係図、協議書、遺言執行等の実務、事務所経営、営業、業際と幅広く講義をさせていただく予定です。やっぱり相続全体を一通りさらうには、これくらいの回数(時間)が必要になります。

現在、第2回目が終わったところなのですが、2回目の研修の最後で、遺言相続業務の報酬の考え方について、参加者の方々同士で話をしてもらって、それを発表してもらうというのをやってみました。

報酬は自由化されていますので、いくらならOKとかいくらならダメということは言ってしまうことはできないですが、いろいろ聞いていく中でいろいろと感じることはありました。

その中に、遺産分割協議書の作成報酬について、財産額の1.5%ということにしているという答えが出てきました。

報酬の考え方については第1回目の研修でも、ある程度時間を割いてあたりでした。その報酬額だと、1500万円の不動産と1500万円の預貯金についての遺産分割協議書を作成すると45万円とということになります。そこに相続人確定作業と関係図作成なんかを加えていくと、50万円くらいになってきます。財産額が10倍の場合では?という問いに対しては、報酬額もそのままスライドするとの回答でした。そうすると450万円ってことになります。

遺言執行や遺産整理受任ならまだしも、遺産分割協議書作成で45万や450万円を請求するってことについての意味を考えた上で、報酬設定にしているのだろうかと思いました。(発表してくださった方への個人攻撃の意図はありません。発表してくださったことには感謝していますし、そこについては行政書士の民事の報酬の考え方について、私のようなある程度の経験を積んでいる人間や会、支部が、新規登録者に示すことができていないことが原因です。)

「センセイ、近所の司法書士さんに聞いたら、報酬は登記までやって10万円(7万、あるいは15万円)って言われたけど、なんでセンセイのところは途中までやのに、50万円なの?」

って言われたときに、なんて答えるのだろうっていつも思います。
私は報酬については、一定の相場が形成されているものについてはその相場を尊重するというスタンスです。

シンプルな相続手続きについては、司法書士さんの相場というものが存在していますので、それに習う形にしています。遺言執行であれば、旧弁護士報酬規定や、信託銀行等の報酬額というのは高額ではありますが、今のところはそれが遺言執行についての一定の相場であると考え、それに習う形で報酬を設定しています。(そもそも配偶者と子供が相続人となる紛争の可能性が極めて低い遺言において、遺言執行者の指定が必要なのかっていう問題は残りますが)

行政書士と、行政書士が扱う民事の報酬の話をしていると、こういった相場的なものを無視して高額な報酬を設定している人が多いなあと感じます。
しかし許認可ではそのような傾向はあまり感じません。例えば、建設業許可の新規(一般的な内容)で報酬額を50万円に設定する(しかも新規登録者が)ということは、ほとんどの人はできないと思います。そんな報酬額を設定しても、建設業者の方から相手にされないのと、自分にはそれだけのスキルがないと思うからです。

しかし、民事になると、そういう人がけっこうおられます。それは、一般人の高齢者がお客さんだから、そして自分は、民事ならいろんなことを知っているからという思い込みがあるからなのだろうと思います。ダニング=クルーガー効果とまではいいませんが、おかしな話です。

また、相続財産額3000万円(夫が死んで相続人は妻と子供2人という設定)の中で、遺産分割協議書までで50万円(+司法書士さんの登記申請報酬)を請求した場合、その家族からどのような反応があるかってことを想像できないのかなとも思います。

私が法律とは無関係な人間であったとしても、父が死亡して戸籍集めて関係図作って協議書作って50万円という見積もりをみたら絶対に依頼しませんし(ネットでいくらでも報酬額の相場を検索できる)、母がその見積もりにうっかり判子を押したとしても、徹底的に戦うだろうなと思います。同じ内容の仕事を最後までやってくれる人が10万円で存在しているのに、その途中までの仕事にその5倍を払うというのは、消費者被害レベルのお話です。

あと、すごく印象に残ったのは、「民法改正によって遺言執行者も相続登記できるようになったので登記をおこないますし、その分、報酬ももらいます。」的に発言された方がおられたことでした。

そのあたり、(発言者が新規登録者だと仮定して)まだ知識がないからしかたがないからしょうがないかも知れませんが、すごく怖いなと思いました。
民法改正によって、相続させる遺言が遺産分割方法の指定ではあるけども、法定相続分を超える部分については登記を備えなければ他の人に対抗できないということ、遺言執行者は相続人全員の代理人であることが明文化されてました。

それにより、これまでの遺産分割の指定であれば、相続登記において遺言執行者はそのもも関与の余地がないとされてきましたが、それが関与できるようになった、それだけのことです。厳密には違う部分もありますが、これまでも遺贈であれば遺言執行者が登記義務者として登記に関与できたのと同じようになったということだけです。

法改正をうけて、遺言執行者が相続させる遺言(特定財産承継遺言)においても、登記に関与することが可能になっただけのことで、行政書士が相続登記に関する書類を作成したり登記申請したりすることができるわけではありません。業として(反復継続する意思を持って)そうした行為をおこなえば、司法書士法違反です。

そのあたりのことを調べたり、考えたりしないで、「民法改正で遺言執行者が登記できるようになったらしいので、行政書士である私も登記ができる」的に解釈してしまうというのが行政書士らしいなと思います。

もともと、誰でも、依頼者(受遺者)から委任状をもらえば相続登記を代理しておこなうことは可能です。民法に代理の規定があるからです。しかし、一定の条件の場合、その行為は司法書士法違反となります。そして遺言執行者になったところで、司法書士法違反とならないということにはなりません。親族が代理したり、その時、1度だけということで代理するのではなく、そうした民事部門を扱っている行政書士が登記をおこなえば、それは業として登記をおこなったということになります。(行政書士サイドにかたよった法解釈には興味がないので、反論は聞きません。)

また、仮に行政書士が遺言執行者の立場で相続登記ができる(司法書士法に違反しない)となっても、登記について全く知識のない私達が登記申請をおこなうことは、依頼者のためにはまったくなりません。仮に司法書士法に違反しないとしても、司法書士さんに依頼するべきです。

行政書士は、なぜか民事になると、自分はよく知っている、わかっているとなってしまいます。私達は、何も知らないってことを知るべきであるっていうのが私の民事の研修の大きなテーマです。
まだまだ頑張って研修講師をしていかないと、行政書士の民事部門はおかしなままだああっていうのを強く実感しています。
第3回の研修も頑張ります。

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