Culture:どうせ現地のレストランに入るなら、一人に限る。
衝撃の告白をするが、私は誰かと一緒に食事をするのがあまり好きではない。
誠に罰当たりであることを承知の上で述べると、
せっかく何かを味わって食べている最中に話しかけられると気が散ってしまうのだ。
どうかこれは私だけでないことを祈るが、
特に口の中の大好物をじっくり味わっている最中に
大声で「どう!?おいしい!?」などと声をかけられようものなら
口の中の味が分からなくなる。
今自分が何を食べているのかさえ一瞬忘れてしまうのだ。
私とごく親しい人は私がそういう人だと分かっているから
食事中に多少無言を貫こうと何とも思われないが、
これがそうではない人との会食になると大変だ。
私は会食では基本食べ物に手をつけないようにしているぐらいだ。
思えば私は留学していた頃からこの調子だった。
特にミシシッピに移って以降その傾向は顕著になり、
地元のレストランを一人で巡るのが趣味になっていたぐらいだ。
一人でレストランに行くと、良いことがたくさんある。
まず、店構えや店内をじっくり観察することができる。
集団だとその中の誰かが我慢できずに
「早く入ろうよ」「早く注文しよう」という雰囲気になるから中々できないが、
一人ならそのあたりの気兼ねがない。
一切の遠慮なく店の建物の観察ができるのだ。
「照明は暗めだけど、良い雰囲気だな」
「ここから中が見えるようになっているのは良いな」
「何かよく分からないオブジェが置いてあるな」
等々、現地の建築文化をその身で味わうことができる。
次に、メニューをじっくり読み込むことができる。
集団だと一つのメニューを回し読みしたり
「早く決めて」という雰囲気になるから中々できないが、
一人ならそのあたりの気兼ねがない。
日本のものと違って写真が全くないから、
文字を見てどんな料理なのだろうと想像を膨らますのも面白い。
もちろん、メニューを見てよく分からないことや聞きたいことがあれば
サッと店員を読んで話を交わすこともできる。
「この店のおすすめは?」
「一番人気の料理は?」
アメリカの店員はチップ制度もあってサービス旺盛だから
この辺りの質問をすれば必ずやりとりが生まれる。
「ミシシッピのレストランは見た目は適当そうだけど呼んだらすぐに来てくれるな」
といったこともここで学べるのだ。
最後になんといっても、料理を全身全霊で味わうことができる。
概してアメリカの外食は高い。
レストランであれば尚更だ。
ましてや自分で稼いでいるわけでもない留学生である。
しっかり味わって堪能しなければもったいなく感じてしまう。
そして当たり前だが、しっかり味わった方が後から話のネタになる。
「ミシシッピで食べたステーキがおいしかった」
では「へ〜そうなんだ〜」で終わってしまうが、
「ミシシッピで食べたチョイスのリブアイステーキは
脂身がしつこくないし柔らかくて噛み切れるし、
ソースなんて一切かけなくても16オンスぺろっと食べ切れるぐらいおいしかったよ」
と言えば
「へ〜、いつか行ってみたい!」
「何てステーキ屋さんなの?」
「日本のステーキ屋とはどう違うの?」
といったより踏み入った話ができる。
このように、同じレストランに行くのでも
集団で行くのと一人で行くのとでは吸収できるものの桁が違う。
ついでに一人で通うと確実に顔を覚えてもらえるから、
これは一人で通わない手はない。
…筆者、透佳(スミカ)