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辺境のヘビーローテーション① The Barr Brothers - You Would Have to Lose Your Mind

 ある日アパートの隣室からハープをつま弾く音が聞こえてきたら君はどうする。私はじっと耳を傾けるだけで特に何もしない。バンドに誘うなんてことはしない。

 1曲だけ好きな曲がある、というバンドがある。他の曲はそれほどでもないからバンドのファンとは言い難い。でもそればかりをループで聴くから、再生回数はかなりのものになる。異常な数字なので人には知られたくない。

 SpotifyやApple Musicなど、音楽のサブスクリプションサービスが登場して、こういう1曲に出会えることが増えた。でも考えてみると「1曲だけ好き現象」は昔からあったと思う。この現象には、大きく分けて2つのパターンが存在する。

 ひとつは時代と共振した音楽だ。これは個人的なジャンルの趣向性を飛び越えて、同時代を生きる人の心をなかば強制的に揺らしてしまう。普段はクラシックしか聴かない人がロックを聴いたり、邦楽は聴かないと断言していた人が、聴かず嫌いだったと前言を撤回したりする。YouTubeの再生回数は当然のように億を超える。

 そしてもうひとつは、一部の人にだけ妙に刺さる1曲だ。こちらは先の例とは違って、一般的な意味での成功には程遠い。YouTubeの再生回数はせいぜい20万程度だ。人が多く集まっているところを中心地とするならば、そこはインターネットの世界では僻地である。そして私が今、狂ったようにリピートしているBarr Brothersの1曲もこちら側だ。現時点でのYouTubeの再生回数は16万程度。この先ものすごく伸びるということはないだろう。でも妙に純度の高いコメントが並ぶ。はまってしまったのは、自分だけではないことを知って嬉しくなる。

 Barr Brothersは、Spotifyのリコメンドに出てきて初めて知ったバンドだった。本国カナダでもそこまで売れている風でもないが、日本語の情報は極端に少ない。仕方がないので英語のWikipediaを読んでいたら、興味深い記述を見つけた。

結成は2005年。Barr(兄)は引っ越し先のアパートの壁越しにハープの音を聞く。隣のドアをノックして自己紹介し、彼らはバンドを始める。
(抄訳:出典 https://en.wikipedia.org/wiki/The_Barr_Brothers

 ある日アパートの隣室からハープをつま弾く音が聞こえてきたら君はどうする。私はじっと耳を傾けるだけで特に何もしない。バンドに誘うなんてことはしない。でも別のある日、アパートの廊下でばったり会ったらどうしようか。嬉しくなって、つい余計なことを話してしまうかもしれない。たとえば、自分も若いころ音楽をやっていて、本気でミュージシャンになりたかったんだ、なんて。

 ハープの音は飛距離が短い。ぽとんと足元に落ちてしまう。どこか浮世からずれてしまっているこの感じは、アンプで増幅したギターでは出ない感触だと思う。「You would have to lose your mind」とたたみかける声は、後半ひび割れていく。

 これからときどき、個人的に好きな曲のことを書いていきたいなと思って、タイトルに①とつけてみました。②がいつになるのか未定ですが、長く細くやっていけたらいいなと思います。とりあげる曲も、たぶんロングテールなやつだと思います。よかったら、また読みに来ていただけると嬉しいです!

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました! そこにある光と、そこにある影が、ただそのままに書けていますように。