ウェス・アンダーソンの世界を彩るオシャレすぎるクラシック音楽
熱狂的なファンを持つ奇才の映画監督ウェス・アンダーソン。
ついに新作映画「フレンチ・ディスパッチ」が公開されるということで、今回は彼が映画に用いたクラシック音楽をご紹介したいと思います。
ファンの間では有名ですが、映画はもちろんのことウェス・アンダーソン映画はサウンド・トラックもとんでもなくお洒落なのです。オリジナルで作曲される場合もあれば、ロックやポップスからジャズや民族音楽までさまざまなジャンルの楽曲が登場します。彼のユニークでポップな映像とクラシック音楽が合わさるとどんな化学反応が起きるでしょうか?
ムーンライズ・キングダム
子どもの頃ブリテンのオペラに出演したことから、作曲家ブリテンの大ファンになったというウェス・アンダーソン。本映画は彼のブリテン愛が爆発しています。
ブリテン作曲『青少年のための管弦楽入門』は、この映画の始まりと終わりを結ぶ大切な一曲です。
20世紀の音楽シーンに大きなインパクトを与えたイギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテンは、オーケストラ曲を学ぶ子どもたちのために『青少年のための管弦楽入門』を作曲します。曲名は堅苦しいですが、内容はとてもユニーク。ひとつのテーマとなるメロディを「変奏」という形で展開していくのですが、その変奏はさまざまな楽器が担当し、各楽器の紹介がナレーションで挿入されるのです。つまりナレーターの紹介とともに進み、最後には壮大な曲として成り立つというよく出来た曲です。ナレーション付きの動画でお楽しみください。
映画の中の子どもたちはこの曲をレコードで繰り返し聴きます。
主人公サムとスージーは孤独で不器用ゆえに愛されない子どもでしたが、運命の出会いから駆け落ちします。二人の愛の強さが多くの人を巻き込んでいくストーリーと、『青少年のための管弦楽入門』は最高の相性ではないでしょうか。
『青少年のための管弦楽入門』は初心者向けというものの、実はとっても完成度の高い楽曲。そして『ムーンライズ・キングダム』もポップな子どもの恋物語かと思いきや、愛の強さに大人までもが圧倒される姿が描かれているように思われます。どちらも子ども向けだからといってあなどれないのです。
そして聞き逃してはならないのがエンドロール。音楽を担当するアレクサンドル・デスプラがブリテンの曲を受けて、「現代版」の管弦楽入門曲を作曲しているのです。曲の紹介ナレーターから始まりながらも、登場する楽器にはエレキギターやバンジョーまで含まれるとても楽しい一曲です。最後の最後まで楽しませてくれるウェス・アンダーソンならではの演出でしょう。
ザ・ロイヤル・テネンバウムズ
個性的なキャラクター達のユニークすぎる言動と、ポップでお洒落な映像が印象的なこの映画。天才キッズとして子供時代もてはやされたテネンバウムズ家の三兄弟が、大人になってから抱える問題だらけの様子と家族の再生を描く物語です。
子どもたちの輝かしい栄光を紹介する冒頭のシーンでは、ビートルズの『ヘイ、ジュード』が切なく流れます。そして大人になってからの彼らを演じる俳優陣が紹介される場面で用いられているのが、ラヴェルの『弦楽四重奏曲 第2楽章』です。
フランス近代音楽を代表する作曲家ラヴェルの傑作のひとつであるこの弦楽四重奏曲は、同時代の作曲家ドビュッシーにも絶賛された一作です。
「とてもいきいきと、きわめてリズミカルに」と指示されたこの第2楽章は、指で弦をはじく「ピッチカート」技法から始まり、躍動感あるリズムが特徴的です。さて今から何が始まるのだろうか、というミステリアスさに満ちた面白い楽曲です。ビジネス、作家、テニスの分野で成功をおさめた天才キッズがどんな大人になったのだろうか…そんな場面で流れるのがこの曲。大人になった彼らが真正面から次から次へと写される映像とリズミカルな弦の響きがなんとも面白いワンシーンです。
今回ご紹介しきれていませんが、ウェス・アンダーソン映画にはまだまだたくさんクラシック音楽が登場します。(『犬ヶ島』のプロコフィエフ、『グランド・ブダペスト・ホテル』のヴィヴァルディなど…リクエストがあれば記事にしたいところ)
筆者はクラシック畑の人間ですが、ウェス・アンダーソン映画での曲の使われ方を見ているとその新鮮さにびっくりします。彼の世界観とクラシックの音色が絶妙に合ってなんともオシャレ…!
皆さんもぜひ、新しい視点でウェス・アンダーソンの世界を堪能してみてください。