見出し画像

【映画】ベルイマンの「秋のソナタ」と母娘と父娘のあれこれ|ある映画研究者との対話

M君
H君

今日、市内に用事があって夫とくるまで出かけたのですが、
先日M君とH君と3人でビールを飲んだあのポルトガル料理店で
ランチしてきました。

メインは鶏の網焼きで、おいしかったです。
久しぶりの夫婦二人の外食でしたが、夫も喜んでくれました。

 私たち夫婦の結婚式は1982年のクリスマスだったので
今年は30周年になります。

教会のバージンロード(英語ではこう言わないけど)を、
父と腕を組んで歩いたのがつい昨日のことのようです。

当日父は涙を見せなかったのですが、
帰宅してからものすごい荒れようだった、とあとで弟が話してくれました。

夫が「お嬢さんをください」って挨拶に来たとき、
まったく反対はしなかったんですけどね。

でもやっぱり、略奪されたと感じていたみたい。

 内田たつるの娘が、両親の離婚後に父親と暮らすのを
自らの意志で選んだのだとしたら、それは
「父の方を選んだ」というより
「母を選ばなかった」からじゃないかな。

母は一人でも大丈夫、という女同士の信頼があるのかもしれない。
(成人していなくても、そういう直感があるような気がする。)

母と離れても母と自分が切れることは無いけれど、
父は、自分と離れると「娘との縁を切られる」と感じるだろう、
それはかわいそうだ、
と子供心に思ったから父のそばにいてあげることにしたのかも。

ベルイマンの「秋のソナタ」という映画を思い出しています。
晩年のイングリッド・バーグマンが演じたのは元ピアニスト。

奔放ほんぽうな恋をして、娘をあまりかえりみなかった芸術家という設定は、
絵に描いたような良妻賢母の私の母とはまったく違うのに、
娘が母にぶつけるセリフの一言一言に

「そう、そう、そう、私もそれが言いたかった」

とうなづいていた私がいました。

女の子にとって母は最初のライバル。
父は永遠の恋人。
どんなふうに育てようと、娘からは憎まれ、また愛されますね、きっと。

私は、自分が父を憎んだ原因が父への深い愛情の裏返しだったことが
父の死の前にわかって良かったと思っています。

H君も、M君も、お嬢さんたちとの幸せな時間が長く長く続きますように!


父が息を引き取る前に少しだけ意識を取り戻した時間に病室にいたのがたまたま自分ひとりだったことを「母に勝った」となぜか思ったことを誰にも言っていない すみより

私からM君H君へのメール 2012年1月30日

すみさん
H*っちゃん

俺は内田たつる、読んだことありませんが。

離婚歴ありで娘がお母さんでは無くお父さんを選んだって、意味深ですね。

俺も4年前に妊娠した妻に何気なく、
娘が生まれるといいよなあ~って言ったら、そうなって、
それから3歳前くらいになったら、娘が
パパと結婚したい
なんて言ってくれるといいよな~って言ったら、そうなって
(もちろん、今はもうそんな戯れ言は言いませんが)、
現在、3歳3箇月です。

今後、どのように娘を教育してあげるべきでせうか? ご指導ください。

イングリッド・バーグマンの人生、興味ありますね。

彼女はたしかスウェーデン人として渡米して
ハリウッド映画人気女優になって、
50年まではヒッチコックのような傑出した芸術娯楽映画作家のもとで演技しながらも、
しょせんハリウッド映画産業が嫌でたまらなかったのでせうね。

Ingrid Bergman from Casablanca 1942

終戦後、45年製作のイタリアのロッセリーニの
アンチ・ハリウッド的な芸術映画に惹かれて、
ハリウッド人気女優としてのポジションを捨てて、
そしてたしかアメリカで夫も娘も捨てて、

50年ころにイタリアに渡って、ロッセリーニと結婚して、
旦那とすばらしい映画(たとえば「イタリア旅行」)を何本かつくりはするものの、

Ingrid Bergman from Journey to Italy (Viaggio in Italia) 1953

55年すぎるころには、もはやふたりで良い映画がつくれなくなって、
それから彼女は、いったんハリウッドに戻って、若干仕事をして、
その後、たしかひとりで故郷スウェーデンにもどって、
それなりに秀逸な映画作家ベルイマンのもとで、
「秋のソナタ」に代表される良い映画をつくりますよね。

でも、彼女はその後、65歳くらいで亡くなるんでしたっけ?
〔注、乳がんのため67歳の誕生日に逝去〕

ともかく彼女はヒッチコック映画、ロッセリーニ映画、ベルイマン映画という、それぞれすぐれた監督のもとで仕事しているので、たいしたものです。

女優としては、わたしは彼女にはそれほど惹かれませんが、
彼女の人生にはとても興味があります。

彼女がロッセリーニとのあいだにつくった娘イザベラ・ロッセリーニも
当然すばらしい女優になっており、

デイヴィッド・リンチという
現在のアメリカ映画作家では数少ない傑出した映画作家の代表作
『ブルー・ベルベット』(86年)で、いい味を出しているので、
映画史上、いろんな迷い道があっても、嬉しいですね。

KM

M君から私とH君へのメール 2012年1月30日
Kyle MacLachlan and Isabella Rossellini in Blue Velvet 1986