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映画『マルモイ ことばあつめ』感想
私は、数週間前から韓国語の勉強をはじめた。
Netflixで『愛の不時着』という韓国ドラマをみて、その面白さに衝撃を受けたからだ。
それまで、韓国の映画は好んでよくみていたのだけど、ドラマはかなり昔(ヨン様とか・・・)でイメージが止まっていて、なんとなく敬遠していた。
それが、『愛の不時着』で認識を改めると同時に、「これから、今よりさらに韓国のエンタメに触れる機会が増えるだろうな」という予感をひしひしと感じた。
だから、映画・ドラマを楽しむことに全力の私は、韓国語を始めたわけだ。もしかしたら、同じようなひとも結構いるかもしれない。
ハングルを覚えて、単語を覚えて・・・としているうちに、ひとつ気付いたことがある。
文法や単語に、日本語と似ている部分がとても多いということだ。
『マルモイ ことばあつめ』は、1940年代の日本統治時代の韓国で、朝鮮語の辞書をつくろうと奮闘するひとたちの、実話をもとにした話だ。
日本語をつかうことを強制されて、朝鮮語は消えてしまう危機にあった。朝鮮語学会のメンバーたちは、なんとか朝鮮語を守るために辞書づくりをすすめていたが、日本からの圧力が強く、危険にさらされる・・・。
主人公はパンスという読み書きのできないチンピラ(画像真ん中)。同監督が脚本を担当していた前作の『タクシー運転手』で、いいキャラしていたおじさんと同じ人!!チンピラっぽいけれど、人情に厚く仲間想いな役のハマり具合よ。
もうひとりの主人公は、ジョンファンという朝鮮語学会の代表(画像いちばん右)。真面目で気難しく、他人を心から締め出しがちだったが、パンスとの交流を通じて変わってゆく。
この作品では前作『タクシー運転手』にひき続き、歴史の大筋では語られないような、生活のなかのヒーローをエンタメに落とし込んで描いている。私はマルモイをみたとき、残念ながら寝不足で万全の体調ではなく、頭がぼーっとしていた。だから思ったように考えたりしながら鑑賞できなかったのだけど、それでも面白かったからすごい。
それは、戦時中の辞書づくりという、一見こむずかしく地味なテーマを、ぼんやり観ていても面白いくらいにエンタメとして完成させているということだ。
非識字者であった主人公パンスが、ハングルを勉強して読めるようになり、はしゃいで看板を音読したり、本を読んでその内容に涙するシーンがある。いま他言語を勉強している身としては、自分に重ねずにはいられなかった。
それまで記号のように見えていたものが、文字として認識できたときの世界が広がったような感覚。
そんなふうに、「言葉」についての普遍的な話としてもこの映画はすぐれている。
最初は学会のメンバーたちだけで言葉の採集をしていたが、ジョンファンとパンスが心を通わすにつれて、全国各地たくさんの人と行う辞書づくりに変化していく。
次の世代に言葉をつなげていくためには、多くの人がその言葉を使っている必要がある。それは決して一人ではできないことであり、まさに作中に出てきた「1人の10歩より10人の1歩」だ。
学会の人たちだけではなく、言葉を守りたい名も無きひとりひとりの想いがつまってできた辞書は、より意義深いものになっただろう。
「言葉」に興味がある人や、他言語を学んだことがある人はぜひみてほしい。
惜しむらくは上映館が少ない・・・。もっと増えるといいなぁ。