戦争下で罪のないひと
突然だが、『ミス・サイゴン』というミュージカルが大好きだ。
2014年にハマってから何度となく観ている。公演も、Blu-rayも。
手がけているのは、有名な『レ・ミゼラブル』を生み出した作曲家クロード=ミッシェル・シェーンベルクと、脚本アラン・ブーブリルのコンビ。
ミス・サイゴンの見どころは、なんといっても「不条理」だ。
舞台は1975年。ベトナム戦争終戦間際のサイゴン。
村を焼かれ家族を失い天涯孤独になった17歳の少女キムは、生きるために首都サイゴンに来た。そこで得た仕事は売春バーのキャスト。初めて出た店でアメリカ兵士のクリスと出会い、恋に落ちる。
共に生きていくことを誓う二人だったが、サイゴンの陥落はすぐそこまで来ていた…。
このミュージカルの題材は蝶々夫人だという。
蝶々夫人を私は読んだことがないが、ご存じの方はピンとくるかもしれないが二人は戦争により引き裂かれる。
ここで描かれる不条理とは、人々の生活、日々の営みが破壊される不条理だけではない。
「恋」「愛」というおおよそ誰しもが共感しやすい事象を通し、戦争に関わった者は人を愛することすら歪められるのだということを、これでもかこれでもかと思い知らされる。
人を愛そうとしただけ。
それが人を殺してしまう。
人を愛そうとしただけ。
それが人を裏切る。
人を愛そうとしただけ。
それが人を死に追いやる。
戦争下において、誰もが、罪を犯さないということはないのだ。
戦争の不条理は、なんといってもここにあると思う。
なぜ戦争がいけないか。
この物語はそれを示している。
とてもつらいストーリーが続くので、観るのに膨大なエネルギーを要する作品だ。あんまりおいそれと人に勧められる作品ではない。
だけれど、ミュージカル作品なので美しい歌や迫力のあるダンスがそれを中和してくれる。
何度でも観てしまう魅力のある作品なのだ。
次の日本公演予定は2026年だという。
2020年公演はコロナ禍で中止となり、2022年公演は私は不調で行けなかった。
また観に行けるかな。
行きたいな。