公募戦士たちに捧ぐ記録:その2 書類書きは「意中の人をデートに誘う」つもりで
書類の「書き方」は意外と大切
大学教員公募への応募に際して,様々な書類を提出する必要があります。
書類の「中身」,より具体的に言えば研究業績,教育歴,etcが大切だというのはあちこちで見かけますし,実際に一面では正しいです。
一方で,少なくとも面接に呼ばれる or 呼ばれそうという応募者の「中身」は,概ね実力伯仲の状態になってきます。こうなってくると,「中身」をどう「見せる」かという,公募書類の書き方も非常に重要になってきます。
上記のリンクはまさに「やってはいけない」ことを一覧にしてくださっていますので,是非一読されると良いかと思います。非常に参考になります。
一方,上記のリンクとは異なり「何をやるべきか」について,いくつかに分けて書いていこうと思います。
私が博士の学生だった頃やポスドクだった頃,以下の「書き方」を意識するまでは全く面接に呼ばれませんでした。
しかし,以下の書き方を実践した結果,連続して面接に呼ばれるようになり,書類落ちしたのは異動に際しての1回だけ(それも多少専門と違う領域だったのでやむなし)でした。それくらいに重要だと個人的に思っています。
(業績面の問題もあったかもしれませんが,博士の頃からコンスタントに業績は積み重ねていたので,書き方の違いが大きかったと思っています)
敵を知り己をしれば百戦危うからず
唐突ですが,あなたが意中の相手(異性や同性)をデートに誘うとしましょう。その時,なんの計画もなくいきなり誘いますか?そんなことは恐らくしないでしょう。相手の好み,趣味,年齢,それらを踏まえた場所の選定,等々可能な限り事前に調べるのではないでしょうか。
その上で,例えば一般的には「焼肉は付き合う前のデートとしては避けた方がいい」などと言われますが,相手の方の好みに合致しているならあえて焼肉に誘うことも考えられるでしょう。デートに誘う「鉄板の方法」や「避けるべきこと」は確かにあります。しかしそれらは一般的傾向であり,相手によっては敢えてそうではない方法を採ることも,当然考えられるのです。
公募もそれと同じです。意中の相手(公募先)と付き合う(雇用される)ために,まずは相手のことを知ることから始めましょう。
「公募する側は優秀な人が欲しいのではなく,想定している望ましい人材が欲しい」
と前回の記事にも書きました。このことを意識できるかどうかが全てです。
書類を書く前に一呼吸入れよう
書類の中でも,業績のリストに関しては先方のフォーマットに合わせるというクソ作業以外は特にやることはありません。また,学歴などの基本的なパーソナルデータについても同様でしょう。その作業をやりながら,まずは相手のことを知ってみましょう。
手がかりは「公募要領」と「大学の公式HPなどの公開情報」の2つです。
一般に,公募要領には必要な資格,担当する科目が掲載されています。
例えば,資格欄に「〜の実務経験があること」という指定がある場合,何らかの理由でその実務経験がその大学にとって必要であることを示しています。あるいは,担当する科目に公募されている領域とやや外れた領域の授業が記載されている場合,その領域を担当する教員が何らかの事情で不足していることを示しています。
大学の公式HPや,あなたが応募しようとしている講座のHPも非常に重要です。少なくとも国立大学の場合(そして最近では多くの私立大学も),大学がどのような方針で運営・経営されているかということは必ず明示されています。大学のディプロマポリシーやアドミッションポリシーも重要です。それらは,あなたが教員として採用された場合に実現しなければならない(と先方の大学が考えている)内容なのです。
また,多くの場合,あなたが応募しようとしている講座に所属している全ての教授と知り合いである,ということはないと思います。是非,講座のHPなどを参考に,それらの先生のおおよその傾向と研究上の好み,どのような人が好き(そう)か,ということを推測しましょう。例えば「理論ゴリゴリの研究が好きそうな人」なのか,「実験を重視する研究が好きそうな人」なのか,「研究よりも教育に関心がある人」なのか,といったことを頭に入れておくだけでもいいでしょう。
ほとんどの場合,人事委員会には,応募しようとしている講座から1〜2名の教授が入っています。そして,その方達が「あなたを採用したい」と思ってくれるならば,他の(異なる領域の)委員の先生よりも強力な味方になってくれるのです。
なお,ほとんどの国立大学では,教員選考に関する規定が公開されています。上記は京都大学の例ですが,人事委員会のメンバーがどのような構成になっているかはっきりと明示されています。一度読んでおくと,色々な意味で役に立つでしょう。
意外と大事な「教育・職務に関する事項」
はっきり言ってしまうと,業績に関してはリストにするしかありませんし,門外漢の委員の先生からすれば中身についてはサッパリわかりません。
工夫の余地が大きいのは,教育上の能力や実績,職務上の能力や実績に関する事項(そして後述する抱負など)です。
なぜなら,ここは「自由に自分をアピールできる場」でもあるからです。
例えば,様々な公開情報から先方が「ICTツールを駆使したアクティブラーニング型の講義をやる教員が欲しい」と考えていることが推定できたとしましょう。クソ文科省に踊らされているだけの愚かな連中め,という本音はグッと堪えて,それがアピールできるような事項を書くのです。
この状況で,例えばあなたが非常勤講師などでICTツールを使った講義をやっていて,その授業評価アンケートの点数がよかったとしましょう。また,自由記述欄に「XXXXというICTツールの利用がよかった」などと書いている学生が一人だけいたとしましょう。
この場合,書類には教育上の能力として「○○という講義は授業評価アンケートの結果が大変よく,「ICTツールの利用が役に立った」といった記述もあるなど,講義への工夫が評価された」といったことを書けばいいのです。こうした小さなアピールの違いは,特に実力が伯仲した相手との戦いで「一歩だけ」先をいくポイントになるのです。
たった一人しか書いていない内容を,あたかも総意のように書くのはアンフェアではないかというのはその通りです。しかし,私たちの目的は誠実であることではなく,採用されることです。
嘘は書くべきではありません(万に一つ照会されるとバレますし,仮に誤魔化したとしても面接などでボロが出ます)が,本当のこと(この場合アンケートに書いたのが一人だけであること)を書く必要はないのです。
もしも後日面接に呼ばれて「何人くらいがICTツールを評価していましたか」と聞かれたら「具体的な人数には自信がないが,大人数ではない。より多くの学生にアプローチするという点は今後さらに改良するべきポイントだが,評価してくれた学生は確実にいた。」と返せばよいのです。
くどく言いますが,嘘を書いてはいけませんが,本当のことを書く必要はないのです。
教育・研究などの抱負はありがたい自由記述欄
ぶっちゃけた話をしてしまうと,よく提出させられる「教育・研究への抱負」の類は,書類選考の段階では真面目に読まれない場合も多いです(私は読みますが・・・)。
しかし,業績等々だけでは判断できないギリギリの状況になった時,最後に参照されるのは「教育・研究への抱負」の類なのです。概ね,ここを読むとその人間の性格,考え方,そして何よりどの程度本気で自分の大学に着任したいと考えているか(=よく調べているか)がわかります。
ここで独りよがりな独演会ではなく,「意中の相手」のことを考えながら書くようにしてください。ラブレター(今時だとラブLINE?)を書くような気持ちで挑みましょう。
最低でも,どの大学にでも出せるような「コピペ」文章は辞めましょう。あなたが応募しようとしている大学のために書いた書類なんだな,とわかってもらえるようにしてください。
(具体的な書き方については,次のNoteで言及しようと思います。)
続く
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