「棺ふる海」遊んでみました
「棺ふる海」とは
毎年夏に開かれるフリーゲームの祭典の一つ、「WOLF RPGエディターコンテスト(通称ウディコン)」。
僕は毎年楽しく遊ばせてもらっているのですが、「棺ふる海」は今年(第15回)の出展作品の一つです。うどんのたまご様が作成しました。
ソロジャーナルというのは見慣れない形式ですが、一人で遊ぶTRPGだと思ってもらって大丈夫です。
作品の導入と、ダイスの出目に基づいた導きで、自由に想像力をふくらませることが魅力の作品です。
昔ノートに、誰にも見せられないような作品を書きつけてきた方には面白がれるのではないでしょうか。
感想
TRPGは昔好きだったので、物語の創作は体力があればやりたいと思っていたのですが、ほどほどの分量でできてとても楽しかったです。
起承転結をつけやすいパラグラフ量でした。
この形式はデータがほとんどないので、データ的に煮詰めてキャラメイクしたりとかこだわらず、思ったところから書き連ねられていいですね。
最初の能力づけのところでダイスを振ったほうが書き始めやすいという説はあるにはあるのですが、この作品に関しては今の自由筆記形式のほうがいいように感じました。
序盤でしっかり妄想力を働かせて、頭の中に海妖を存在させることは、以降の妄想を捗らせることに繋がるので。
書かせるものも、小説ではなく「ジャーナル」としているのがまた気軽に創作できてよい形式でした。
最初は起承転結を意識しなくてよい。ただ、妄想したことを観察し、一つ一つ文字に落とし込む。そのうちに繋がっていく。
この体験が心地よかったです。
以前作成されていた「自由落下」も遊ばせて頂いたのですが、文章がいいんですよ。
適度に描写しつつ、読者の想像の邪魔をしない。作者の世界を押し付けない。
作者の世界に没頭させる作品にももちろんいい作品はたくさんあるのですが、致命的に合わないときがあるんですよね(作品としての上手さ、とは別軸に)。
うどんのたまご様の作品からは、「読者に想像を膨らませてほしい」という思いを存分に感じられて、だからこそよかったです。
ゲームブック形式のゲームをよく出されていて、それも文章の魅力が100%出ていて大好きなのですが、ソロジャーナル形式というのはもしかしたら、うどんのたまご様の強みを120%発揮できる形式なのかもしれない、と思いました。
今後もまた遊びたいです。
というかv1.01が出てたの気づいてなかったので、これからもう一周してきます。どうせコロナで外出自粛中だし。
蛇足:ジャーナル
あらすじ
純粋悪がついかっとなって人類悪を滅ぼす話
本編
『棺ふる海』ver0.08 プレイ日時:2023/07/29
プレイヤー名:スミー
○海妖について
巨大なクジラのような姿。生態はナマズに近い。地震(より厳密にはマントルの対流変化)を引き起こす能力がある。
住処:石造りの都市軍が沈む海底
趣味は都市探検。能力を使って文明を海底に沈め、その名残を見て楽しんでいる。
この石造りの都市はここ数百年のおもちゃ。繁栄した都市があることを検知して沈めたが、詳しくは知らない。
この都市がまだ陸だったときには、定期的に白いひらひらが降ってきて、海妖はそれを楽しんでいた。
○石棺について
形状:人一人入りそうな長方形の石棺/金銀財宝
物によって内容物が違う。よくあるのが
・文字が刻まれた金塊一つ
・少しくすんだ小さな宝石
・指輪やアクセサリーがいくつか
といったもの。
稀に
・文字が刻まれた金塊一つ(文字がやたら多い)
・色とりどりの透明感が強く、大きな宝石
・大量のアクセサリー(人が全身を装飾できるほどの量)
が入っている。
金塊はかならず一つだけ入っている。
○海上の人々の反応について
反応:中立的
海に地震を引き起こす「海神様」がいることは認知されているが、いままで見たものはいない。
(いたとしたら既に海底に引きずり込まれている。)
また、見た目はクジラなので、ただ驚いただけで、海妖であることはバレていない。
バレないまま巨体で船を沈めてしまった。
○理由
船内にある文書から知る。(船を沈めてから漁った。文字は過去の文明の残滓などから、がんばって理解した。)
海洋の某国ではとあるカルトが破滅的に流行している。
そのカルトでは「現世にいながら成仏することで救済される、そのためにはあらゆる欲を捨てなければならない」と教えている。
その儀式として、
・手持ちの財宝
・友人から花代わりに手向けられた宝石(これはカルトが売っている)
・名前を刻んだ金塊(これもカルトが法外な値段で売っている)
を落としている。
財宝だけでなく、宝石と金塊を落とすのは「過去と未来の縁からくる欲を落とす」ためとされている。
しかし、当然ながらこれはカルトが国家から現金をかき集めるための手段でしかない。
カルトは国家が破綻する直前に、別の基軸通貨(ドルなど)に換えて持ち逃げするつもりだ。
○決断
石棺を止める
理由がわかっちゃったからおもんないし、今遊んでる都市群が潰れるのも腹立つし、なにより破滅寸前の国家の様子が気になる。
つまり海洋都市を、カルトが売り抜ける前に沈める。
○行動
海洋国が乗っているプレートを分割し、沈み込ませて反発で地震を引き起こし、津波を発生させる。
その後早回しで沈み込み帯に向けて都市を沈み込ませる。
本当はもうちょっと丁寧に切り取りたいところだが、逃げられると腹が立つのでちょっと手荒にやる。
石棺は予定より早く止んだ。
津波の被害は甚大だった。船が軒並み押し流され、都市機能も麻痺した。人的被害も多かった。
三方を山に囲まれたこの国は、海上流通が国家の要だった。
そのため、カルトのせいで経済が破綻しかかっていた国家が困窮するのには時間はかからなかった。
ハイパーインフレ。暴動。テロ。カルトも「現世救済」が成り立たなくなり求心力を失った。
全ての縁と財を切った人々は、失うものもないため、貴賤なく自らの生存のためだけに戦い、散っていった。
老人たちは古くからの信仰である「海神」の怒りであるとして、怒りを鎮めるために白い花束を海に投げた。
古くは若い女性が海に身投げをしていたが、いつからか代わりに「婚姻のブーケ」として花束を海に入れるようになった。
あくまでこれも迷信であった。不漁は知ったことではないし、海妖が関与してない地震も起きる。
が、今回ばかりは的確だった。
偶に降ってくる白いひらひらのことは、海妖も好ましく思っていたのだ。
2~3年かけて都市ごと沈めようと思っていたが、ひらひらと戯れているうちに、気がそれてしまった。
○結末
海妖は古の都市群を観察しながら、たまに降ってくるひらひらと戯れる日々に戻った。
最近文字が急速に読めるようになったので、新たな発見がたくさんあり、飽きそうにない。
たまに、「新聞」と呼ばれる紙がひらひらに混じって降ってくる。
この紙はいつも違うことが書かれている。
貿易の定期船が戻ってきて、災害救助という名の侵略が行われた。
財も名前もない人々は、喜んで支配されたようだ。
カルトの名は「還海教」と言ったらしい。
海に沈んだ都市で、救済のために身投げをしていたという話を脚色し、
「実質死んだ」ように仕立て上げれば教義としても筋立てが通り、ビジネスチャンスも大きいと見たのだろう。
ただ、海妖が実在していたこと、金銀財宝に興味がなかったことが誤算だった。
一連の事件は諸外国に介入され、教祖や幹部連中は逮捕された。
とある事業家が「海に花束を投げる」風習に目をつけてツアー化した。
なんでもハネムーンのプランとして映えるらしい。
老人たちはまた海神の怒りに触れないかひやひやしていたが、その心配は杞憂に終わった。
なぜならひらびらがどういう理由で降ってくるかは、海妖にとってはどうでもいいことだったからである。
今度はサルベージ隊を派遣し、海底に落とされた石棺を回収して一儲けしようと企んでいるらしい。
旧来の国家のあり方とは大きく異なるが、とにかく新しい道のりを進んでいるようだ。
これらの出来事を「現世救済」だと言っている過激派な信者もいるが、なんにせよもう石棺が降ってくることはない。
石棺を作れる人はいない。仮に作れたとしても、すでに現世救済にたどり着いている以上、石棺を作る意味がない。
かくして、人と妖の交流は、虚実入り乱れながら続いていく。
サルベージ隊が生きる伝説に遭遇し、もうひと悶着起こすのはまた別の話。
あとがき
最初海妖……?と言われてもピンと来なくて、なんとなくリヴァイアサンに寄せておこう、という感じでやり始めたのですが、海底都市を住処にし始めた段階で「あっ、こいつやってんな?」となり、楽しくなり始めました。
でかい図体とそこそこ言語を理解できる知能をして、小型犬みたいな行動原理で動いています。
石棺を落としている船が中立的態度を取っていたときも、最初はピンと来なかったのですが、理由が「船内にある文書から知る」と出てしまった以上、「沈めたなこいつ!」となりました。海の底はハウス。欲しい物全部沈めていくスタイル。
今回のジャーナルには「海神様信仰」と「伝説を基にしたカルト」の2つの信仰が出ています。先に思いついたのはカルトの方でした。石棺に金銀財宝入れているの、意味わからんでしょう?なので、それっぽいやべーカルトを作りました。
で、じゃあそのカルトってどういうバックボーンで組まれているのだろう?と考えて出てきたのが「海神様」です。
ちゃんとカルトに追い詰められてほしかったので、そのためにはやっぱ海洋以外孤立してなきゃね、それなら海には神様が発生するよね、生贄とか絶対やるし、生贄の代わりの儀式とかも絶対あるよね、とかそんな感じ。
普通ならただの信仰なんですが、偶然たまたま海神様が実在し、たまたま海神様の気分を良くする信仰の仕方だったので、世界を救うことになります。
カルトの失敗は、ステークホルダーの理解が不足していたことです。いや海神様なんてステークホルダー実在するとは思わなかったでしょうけども。
「人が神を見出す心」や、「力のある獣の心」を歪めて使ったからしっぺ返しを受けた、とも捉えられるかもしれません。
先に調査の上で神殺ししていたら、少なくとも設定上はイケてたので。(神殺しできるかどうかはともかく)
この世界には「悪」と「無力な民」しかいません。海神様は興味本位で文明滅ぼしますし、カルトは国家の金全部抜こうとしてましたし、どっかの侵略国は文化を全部ビジネスに変換しようとしています。
民は身を投げたりブーケを投げたり石棺投げたり爆弾投げたりしてるぐらい。えってか全部投げてるじゃん。ウケるな。
でもこの中で潰れたのはカルトだけです。これはカルトだけは言ってることとやってることが一致してなかったからでしょう。他の悪も、民も、言ってることとやってることは一致している。
多分、「言っていることとやっていることが一致しないとろくなことにならない」は今の僕の大きな信条になっているのだと思います。エデンに通って一致するようになってから人生楽になったので。
まあ多分民族も血が薄まって絶滅するかもしれませんが、人類としては生き残ってるので誤差でしょう。津波受けても死んでなくて還海してなかったら生活立て直せてただろうしへーきへーき。
まあそんなこんなで、適度に風呂敷広げながら適度に畳んでまとめられてよかったです。