お酒と彼女に飲まれて。
気がついたら、僕はベットの上で目覚めていた。
二日酔いのせいだろうか、体を起こすのが怠く感じる。昨夜の途中からの記憶はないが、記憶がなくてもこの場所で目覚めたならなんとなく察した。この場所に慣れている訳ではないけど、何度も眺めるこの風景には少しだけ、いつもと同じ感じの記憶が巡る。
隣では安心するように彼女が眠っていた。僕はそれを起こさないように、ゆっくりと静かにベッドから降りる。ここに来るまでの過程の記憶がまったくないから、自分の携帯が一体何処に置かれたかさえ分からない。ひとまず自分の携帯をその辺から探し始める。
部屋の隅の方で、適当に置かれていた自分の携帯があるのを見つけて、手に取って。ボンヤリ照らされた携帯のスクリーンからは、充電の残り少ないことと、昼の2時だという表示がされているのを確認して、結構な時間が経っていたんだと知る。
別に、今日はたいして決まった用事はない。そもそも、いつも特に用事のない休日を選んでからここに来るようにしていた。彼女と飲みに行ったら、大体こんな感じになることさえ予想して。もしも用事がある日に、ここで目覚めるようなら、当然遅刻する羽目になるんだろう。
予定がない日を選んでるにして、とりあえず予定は目覚めた時の気分で変わる。いつもならこの後に、彼女と何処かに出かけたりするけど。頭の片隅には何処かに出かけたいとは考えて、ただ彼女と一緒に過ごしたいと思わないほど、二日酔いにやられてる。
出掛けない事に彼女に対する気を、少し遣ってしまいそうになるが。ただ気分の悪い日に、わざわざ一緒に居たって楽しくはないだろうと判断した。そもそも別に、彼女と僕とでは恋人の関係ではないからして、気なんて遣わないにしても怒られはしないだろう。
ふつふつと込み上げる感情を、冷静に頭で削除していくように、この場から立ち去ろうとする。ただ、やっぱり体の怠さからもう少しのんびりしていたいと思う。
(もう、酒は飲みたくないなぁ)とか一人で思う。そう思えるほど体調の悪さが、昨夜での出来事を物語っている。とはいえ明日になったら、そう思っていたことさえ、また忘れてる。
それが最近のいつも通りで、彼女に対する未練なのかは分からないが。ルーティンする休日の過ごし方に、当たり前さが湧いて出てきて。そして、それに親しんでしまっている自分がいるかのような感じがしてきていた。
気を遣わないようにして、何処かしら気を遣いながら過ごしてる。
なんだか、こんな1日に少しだけ慣れを感じ始めているところ。きっとこんな週末さえ失われたら、一人になった時に少し寂しくなりそうに思う。いつかは、こんな平凡ではない日常を手放す日が来るとは思いながら。「今はこれでいいよな」と思ってしまう。きっと彼女は、心の何処かにある僕の孤独の拠り所だ。
悔しさは、どっかにあるのだろうか。隣で眠っていた彼女に、自分は心臓でも人質に取られているような気分を密かに感じる。「男女ってそんなもんだ」と言い聞かすように、これが恋愛でもないと確認する。
普通の感覚ではないんだろうが。僕からしても、彼女が一体何を考えているかさえ分からない。今後とも彼女と付き合う形にさえならないだろうと思うが、とはいって突き放されることもないんだろう。この絶妙なラインが、友達以上で恋人未満の形をしっかりと表したような関係だと意識させる。
これで彼女は満足しているんだろうか。
昨日の晩に思い出せることは、居酒屋で彼女が「普通とか、なんだか分からない。」とか、いつも口癖のように言っていたことを思い出す。普通でない自覚がきっと彼女の中にあって、それが特別のように考えているように見えた。僕は、それが当たり前のように「そうだねぇ」とだけ適当に肯定するように返事してた。
僕は彼女のそうした変な部分は嫌いじゃない、だからこそ許してしまうのだろうか。彼女の発言を理解してあげられた方が、きっと僕は彼女に気に入って貰えているような気がした、変だとは思う彼女の発言に否定を入れはしない。
彼女のその言葉に対して、僕は否定することもなく理解してあげようとしている姿勢は。この週末に繰り返してしまうキッカケのように、全てを彼女の責任のようにしない。そうした少しの自分の責任を自覚して。ただきっと単純に、ますます彼女にとっての都合のいい男性のようになれている気もした。
「やっぱ怠いなぁ。」と呟いて、彼女を置いて部屋を出た。