綺麗な包装をされた"空の箱"をくれた母。
綺麗な包装に包まれた
"空箱"をプレゼントされた
「これが私の気持ち。」
これは外面だけ見れば、
心の籠った代物だが
中には何も入っては いない。
外が綺麗ならば、
中身も"きっと"綺麗だと。
思わせられることって
世の中には
よく溢れていると思う。
「おめでとう。」そう言って、
小学生の僕は、人生で初めて、人の結婚を祝う。
大勢の人に祝ってもらう様な結婚式、
ではなく、静かな結婚式。
僕たち家族だけで祝う為に、家族だけで細々と祝おうと、家の中で結婚式を挙げた。
僕と僕の弟2人が晴れて3人の兄弟になる。シングルファザーで僕をこよなく愛してくれた父を祝う少し変わった結婚式。
僕は物心がついた日から、父親というものしか知らない。僕は今まで生まれて一度も母親という存在に、育てられた事はない。
そんな僕にも今日、母親が出来たー。
***
小学生の僕は、夕方の食卓で父親から「お母さんが居たら嬉しいか?」と、質問を受けた。
「嬉しいかも。」と僕は答えたが、
内心では特に強く欲しいとは望んではいなかった。ただ、無いよりは有る、方が良いような?別に居ても居なくてもなんとも思わない。
すごく嬉しい気分でも無い。
この後の未来くらいは、小学生の僕でも想像は出来た。
あの時、僕が「母親なんて要らない。」なんて答えたら。未来はどうなっていたのか?と、今は考える。
そんな質問を聞いてから、次の休日、少し先の未来に母親となるであろう、女の人が来て家の玄関先で「初めまして」なんて僕に話しかけてくるから
僕も「初めまして」と、答えた。
"初めまして"、から始まる家族なんて、あるのだろうか?まだ、コウノトリが子供を運んで来て家族になるんだよ?と言う嘘の方が親しみやすい。
女の人の後ろには2人子供が居た、僕と同い年?くらいの、顔がそっくりな双子の男の子だった。どこかで見た事がある双子だと思った。
その双子は、女の人に、ただ連れられて来ただけのような表情で無言のまま玄関に立っている。
「ほら、挨拶しなさい」と女の人は言う。双子の男の子達も、その言葉に続いて「こんにちわ…」と、聞こえるか聞こえないか小さな声で挨拶をした。
「これから兄弟になるんだから、仲良くするんだぞ。」と、父は僕に言った。え?兄弟になる?そんな話は聞いて居ない。
ただ、これから家族になろうとしてる相手に、嫌そうな顔をするのも酷なので「わかった、よろしくね」と、だけ答えた。
聞けば双子の名前は『悠人』と『悠真』と言うらしく、同じ小学校に通う一つ下の学年だったらしい。
どおりで何処かで見た顔だと思った。
ひとまず、その日は5人で夕食を食べてそのまま"僕と父の家"に泊まることになった。
泊まる、と言ってもそんなに、この家は広くは無く。女の人は父の寝室。
双子は僕の寝室で眠る事になった。
僕の寝室では双子と僕と3人になったが、会話もぎこちなく続かなかった。
そのうち双子は初めての環境で、気疲れをしていたのか、僕の部屋で1つだけ余っていた布団に、二人でぐっすり眠っていた。
僕は一人自分の布団の中で
(これから家に帰るとコイツらがいるのか…)などと考えていた。
慣れた家なはずなのに居心地が悪い。
そんなモヤモヤした気持ちも抱えながら僕はいつの間にか眠って居た。
朝、目覚めると当たり前のように双子は隣の布団で眠っていた。(夢だったらよかったのにな…)などと思いながら
リビングに向かい、父に向かって
「おはよう」と挨拶をしたつもりが
父と。女の人が「おはよう」と返してくる。そういえばいたな、と思ったのと同時に"慣れないな"と感じた。
今日は学校なので、双子と朝食を食べて学校に行く準備をして、双子と一緒に「行ってきます。」と玄関から声を上げる
「行ってらっしゃい」と父と、やっぱり女の人は答える。やっぱり"慣れないな"と僕はまた感じる。
悠人と悠真と通学していたが、大した話もせず、話す事もあまり無く、学校に着いた。
学校に着いたら別々の教室に向かい
教室についたら、同級生の仲のいい友達と昨日見たテレビの話で盛り上がったりして、いつもの日常を送っていた。
そうして"いつも"の1日が終わり、学校が終わり放課後になり、"いつも"のように遊ぶ約束をして、帰り道を帰る。"いつも"のように家に着く。父は多分"いつも"のように仕事で、まだ家には帰ってないのだろう。
そして、家に着いた僕は「ただいま」と誰もいないはずの家に一応声を出す。
だが、いつもと違って「おかえり」と女の人の声が聞こえる。これはいつも通りでは無い、非日常である。当然である。
リビングには双子も居て、女の人と話していた様な雰囲気だ。
ただ、僕が帰ってきたせいで会話は途切れていたようだ。
とりあえず、何か会話した方が良いのか?何を話せば良いんだ?「えっと、これから遊びに行くんだ」と僕は言って「そうなの?いってらっしゃい」と女の人は言う。
やっぱり、居心地が悪い。とにかく、この家からすぐにでも出て行きたかった。"僕の家なのに"だ。
すぐに自分の自室に行き、
早々と準備をしてすぐに家を出た。
「行ってきます!」と言って、返事も聞かずに友達の家に向かった。
友達の家に着いて、また、『いつも』に戻る。いつもと同じものには安心する。人間っていつもと同じ行動を取る事に安心が出来るのはなぜなのか。
友達と遊ぶ事は楽しかった。
ただ、この楽しい、いつもの時間が過ぎれば、また非日常に帰らなければならない。なのに、楽しい時間は、すぐに過ぎる。門限の時間がすぐに迫る。
今から辛い時間の始まりだと時間が教えてくる。
(帰りたく無いな。)と僕は思う。
それでも帰らなければならない
あそこ以外帰れる場所なんて物はない。
門限は近づいてきて、
門限に間に合うギリギリまで粘って、でも父と約束した"門限"には必ず帰れる時間には帰った。
門限には間に合い、家に着いた、家に入れば、いつもの父が居て、当然だが、女の人も双子も居た。
父と女の人が「おかえり」と言う
僕もしっかり「ただいま」と言った。
食卓の上には、いつもよりも豪華な食事が並んでいた。多分女の人が作ったんだろう。
「今日の晩御飯すごく美味しそう!」と僕はちゃんと思った事を言って食卓に座る。
「大した事ないわよ」と女の人が言う。
父はハッキリ言って料理が下手くそだ。
いつも夕飯に出てくる料理の大半はレトルトで。いつも同じ味。それでいて、こんな料理を作ってくれるこの女の人は料理の腕が良い。
食卓に並ぶご馳走を見て、僕はこう思った。
(よく考えれば、なんでこの、女の人と双子と仲良くしようと思わなかったのか?ほんとはいい人なんじゃないか?)気がつけば、今まで逃げようとしてた自分の考えを疑うように思った。
そして、食卓のご馳走を食べてみた。
やっぱり美味しかった。
「美味しい!」と素直に口から出た。
ただ、父の口からは僕は思いもしていなかった言葉が出た
「突然なんだが…」
急に真面目な口調で話し始める。
「この家から引っ越ししてみんなで、遠くに行って、新しい家で暮らそうと思っているんだ。」
……え?遠くに行く?
また、突然な質問が来てビックリする。悠人と悠真は驚いてはいない。
もう既に、知っていたかの様な顔をしていた。多分僕だけが知らなかったのだろう。
初めは嫌がっていたが、初めから知っていた。あぁ、もう決まった事なんだろう。どんなに否定したって変わることのない運命なんだろうな、と。
最後は「わかった。」とだけ答え
それから数ヶ月後に家族で新居に引っ越しをして、新しい学校、新しい環境、新しい生活、そして、新しい家族と生活していく事になり。
今日、この家で家族になる為の、
「今日から家族になるんだぞ」と、認識させられるような儀式が行われた。