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『建築をめぐる三人家族の物語』

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これまで、「家の構造」や「間取り」がいかに人間の精神や行動に、そして家族の暮らしに影響を与えるかを、著書をはじめ様々な機会を通してメッセージを送ってきました。  しかし、これか…
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#連載小説

建築をめぐる三人家族の物語

建築をめぐる三人家族の物語

第18話 生活動線が遮られた家
振り返ると、異常は引越してから二ヶ月目頃から始まっていた。
最初の兆候は、社宅にいる時は日中殆んど泣かなかった光が、引越してからしばらくして盛んに泣くようになった。その泣き方も目が落ち着かなく、不安げでヒステリックだった。

原因の一つは先生が言われたように、急に環境が変わったことや、部屋の構造であり生活動線によるものであることは明らかだ。

それは、咲子が最初に心

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第16話 高層階の罠
小児科の先生の話は続いていた。病名を告げられ動揺を必死で抑えている母親が取り乱さないように配慮をしているのか、目に笑みを浮かべ光の病状、原因、今後の対策をゆっくりかみ砕くように説明してくれたが、咲子は半分も理解できないでいた。理解しようとする冷静さを失って、黙って聞いていた。

「まず無気力症候群といっても、表れてくる症状は人によって違います。光君に特に見られるのは、会話力が

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第15話 引越し
引越しの前の一ヶ月は、目の廻るような忙しさだった。リフォームの打合せ、引越しの準備や整理、引越しセンターの見積り、マンションの引渡しまでの事務手続き、そして近隣の挨拶まで、一切咲子一人で行わなければならなかった。

 武夫は年度末という会社が忙しい時期にぶつかったせいもあるが、家のことはお前に任せてあると言わんばかりに、日曜日の休みの日ですら、引渡しの立会や工事中のマンションにも

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第14話 リフォーム
ようやく契約をしたのは、初めてマンションを探し始めた日から一年と二ヶ月目の十二月上旬、街にジングルベルの音楽が流れている頃だった。渋谷の文化村界隈や道玄坂の街路樹には、ブルー、白、赤の様々なイルミネーションが輝き、東京で一番といわれるファッションの発信基地渋谷の街が、さらに一段と光輝く季節だった。

咲子は、ようやくマンションが決った安堵感と共に、二ヵ月後にはこの街から離れる

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第13話 手付け
 翌日、吉川と駅で四時に待ち合わせをし、マンションまで歩けば十五分程だというが、夕方なのでタクシーで向かった。ワンメーターで、車の窓から見る街並も新しく美しい。

目的のマンションに着き、カードを差し込むだけでドアが開き入って正面の中庭には、現代風の彫刻がありそばには噴水があった。間接照明が中庭全体を包むように浮かび上がらせていた。エントランスロビーの床と壁は、落着いた茶系の御影

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第12話 めったに出ない物件
武夫が帰って、今日の吉川との話をしたら、「いろんな要望の中で諦める項目があれば、その分だけ物件が見つけやすくなるということなんだろ。とすると、ドアツードアで会社まで一時間以内という条件をやめ、二時間以内にしようかな」と言い出した。
「だめよ、会社まで二時間なんて。ますます帰りが遅くなって、私や光との会話が少なくなるじゃない。光とのスキンシップもこれ以上少なくなったらか

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第11話 中古
咲子は気持ちが沈んだが気を取り直し、光のため自分のためにも、なんとか希望に近い物件を探したかった。

光をベビーカーに乗せての見学はストレスも溜まった。公園で遊びたい光をなだめたり、すかしたりしながら思うようなマンションを見つけることも出来ないまま、月日だけは経っていった。探し始めてすでに八ヶ月、季節は梅雨の季節から夏に変わろうとしていた。
吉川は、そんな咲子の気持ちを見透かしたよ

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第10話 なぜ二LDK?

マンションを選ぶには、とにかくいろんなマンションに足を運び見ることが大切だと聞いて、咲子はこの一ヶ月の間、頼んでいる不動産会社の担当者吉川と、五軒ほど光をつれて見て歩いた。五軒のうち、武夫と一緒に行ったのは一度だけ。仕事が忙しく、継続して見に行くことは出来ないのだ。

咲子が見学を通じて分ったことは、確かに吉川が言った通り足を運び見ることは、たとえ条件が合わなくても無駄

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第9話 マンション探し
マンションを選ぶには、とにかくいろんなマンションに足を運び見ることが大切だと聞いて、咲子はこの一ヶ月の間、頼んでいる不動産会社の担当者吉川と、五軒ほど光をつれて見て歩いた。五軒のうち、武夫と一緒に行ったのは一度だけ。仕事が忙しく、継続して見に行くことは出来ないのだ。

咲子が見学を通じて分ったことは、確かに吉川が言った通り足を運び見ることは、たとえ条件が合わなくても無駄とい

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第8話 川の字の空間
待望の子は男の子だった。そして名前を「光」とつけた。男なら光とつけようと決めていたが、咲子にとって自分の子供は他の誰よりも輝いて欲しかったし、その「ひかり」によって周りも明るくする、そんな思いもこめられていた。

京都の父も口には出さないが男の子を望んでいたのは、母から聞いていた。光が実家の後継になる訳ではないが、マンション購入資金を出してもらうこともあり、父の意にそえる形に

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第7話 親の援助
購入資金の半分程度なんとかなれば、住宅ローンと合せれば希望に合ったマンションを購入できるのではないかと、咲子なりに考えていた。

武夫は、子供のためという言い方が気に入らなかったが、仮に五年先に購入を延ばしても頭金をためるのがせいぜいで、咲子が希望するマンションも買えないことは年収からいって分っていた。内心咲子の父親から援助してもらえるのなら願ってもないことだと思ったが、何となく

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第6話 子どものために
子供に恵まれたのは、結婚して二年目の春だった。二人とも春の季節が好きだったので、出産五ヶ月前には、男の子なら春のやわらかな陽にちなみ「光」、女の子なら「陽子」と早々と決めていた。

「どんな子ができるんやろな。きっと男の子なら、武ちゃんに似て男前でやさしい子やと思うわ」

「こんなギスギスした世の中に生まれてくる子供も迷惑な話だと思うけど、男の子ならたくましく育って欲しい。

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第5話 社宅の不満
社宅の環境と住み心地はとても満足していたが、咲子には武夫に言えない二つの不満があった。その不満は最初は感じなかったが、少しずつ蓄積し、今では大きなストレスになっていた。

それは、同じ会社の人が住む社宅ゆえの、人間関係によるものといっていいかもしれない。

ひとつは、毎日の買い物や日曜日二人で散歩に出る時も、奥様方の視線がいつも気のせいか感じられ、気が抜けなかった。

夫の上司

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第4話 新婚の家  
この新入社員歓迎会を機に二人は一ヶ月に一度の割合で会い、食事をしたり映画を見たり、日曜日には鎌倉などにも足をのばした。

鎌倉に行った時は、必ず夕方には「江ノ電」に乗って稲村ヶ崎で降り、七里ヶ浜から伊豆半島に沈む夕陽を見るのが定番となった。

浜辺にある大きな石に腰をかけて、陽が沈むまで黙って見つめていた。そんな時間と空間を幾度も共有するにつれ、もしかしたら結婚するかもしれな

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