経営者ではなく事業家になりたい自分
退職を決めたとある子会社社長の話
先日、ある上場企業の子会社社長とお会いした。初対面であったが「実は9月で退任する」と開口一番お話されて、面を喰らってしまった。
退任理由は親会社社長への「不満」だ。たしか、会食の予定を決めた時にはそんな素振りはなかったので、その後急転直下で決断したという。
成り行きと親会社社長の思いつきで始まった事業について、任されていたものが「いきなり介入してきて、半ば脅しのような態度を取られた」とのこと。トリガーにはなったのだろうが、日頃からの鬱積した不満が爆発したのだろう。
経営者なのか、事業家なのか
社長は誰しも最初は事業家だ。スタートアップ時に経営ばかりやってて生き残れるはずがない。ただ、事業が大きくなってきて組織も大きくなってくると社長は現場から離れていき大所帯をマネジメントしなければならなくなる。人事制度を整えたり、ステークホルダー対応もしなければならない。事業家スタイルのままだとつまらない仕事ばかりだ。
私の経験では経営者としてうまく切り替えられる人もいれば、事業家スタイルのまま経営者としてもやろうとするタイプもおり、大抵の場合後者は上手く行かない。
事業家スタイルでいくなら、管理系の仕事はある程度専門化を採用し任せるべきだ。中途半端に事業に関わると過去の成功体験、思いつき、先入観に支配されて結局うまく行かない。世の中の変化への対応力も低下する。
中途半端が一番良くない。
事業は守りに入ってはいけない
事業が守りに入るとろくな事がない。
顧客満足など考えずに競合つぶしに走ったり、利益率を改善するためにコスト削減や場合によっては人事制度を都合よく改定していく。
顧客満足を高め、正しく利益を得、ステークホルダーで再分配していくとくベクトルを失ってしまう。長年やっていれば息切れし事業意欲が低下することもあるだろう。そうなったら現状維持でも良いと思う。
ただ都合よく見え方を良くしようとするからおかしなことになるのだと思う。
また、市場がシュリンクし始めることもある。そうなったらシャア率を上げるか強みを生かして成長市場に打って出るしか無い。見掛け倒しの売上を作ろうとしてMAを繰り返したりするからどんどんおかしくなる。
辞めるという決断が視野を広げてくれる
前段でお話した子会社の社長さんは、これから会社を作りサービスを立ち上げるとのことだった。しかも、その話をとても活き活きと楽しそうに語っていた。自分の中ではきっと確信を持っているのだと思う。
会社組織の中にいる時は、もちろん組織にコミットしてやるべきだ。ただし、会社としてミッション、ビジョンに知行合一していない場合(そしてそれに気づいてしまった場合)もそれを見ようとしないしどこかで安定を望み、組織人たとうろするものだし、それが自然だと思う。
ただ、会社というのは時に人の人生を食い物にしながら生き長らえる。そして、そういった側面は退職を決断した人により高解像度で見えるもの。
更に、自分の幸せや本当にやりたかったことなども会社という枠組みを取っ払うと自由な発想で考えられるし、その状態が彼の活き活きした表情につながっていたのだと思う。
自由な働き方が許され、推奨されている中で改めて会社という形が社員にあたえる影響の大きさについて考えさせられた。
私はというと、やはり経営者ではなく事業家としていいサービスを作り育てることに生きがいを感じるという再認識も同時に得た会食だった。