《スキタイのムスメ》は、「ただ待つだけ」の時間が無二の価値を生むゲームかもしれない
最近ポチポチとプレイしているアドベンチャーゲーム【スキタイのムスメ : 音響的冒剣劇】(有料ゲーム)。
先日、やっと《暗月》≒ 新月の期間にはいったので、《暗月のトライゴン》を見出すイベントをプレイしてきました。
……って、いきなりいわれてもワケがわかりませんよね。ゴメンナサイ m(_ _)m
【スキタイのムスメ】には一風かわった設定があって、ゲームのこちら側の世界が満月、もしくは新月をむかえるまで発動しないイベントがあるんです。それがこの《トライゴン》関連のイベントでして。ここを突破できるまで、ストーリーの進行がいったんストップしてしまうのです。
私も1週間ぐらいストーリーの進行が停止したまま、特段のすることもなくゲーム内の世界をぶらぶらして、新月を待ってました。
最初は、ゲームを途中で中断して、新月をむかえるまでプレーヤーを待たせる、って、そのアナログ、いや、アナクロぶりはどうなんよ?……と思ってましたが、待ってみたら予想以上にいいことしかなかったので、レポートしてみます。
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① いいこと、って、それはズバリ、休息できたこと
いきなり現実的なことからはいります。
《暗月》を待ってみてなにがよかったって、まずはとにかく、《暗月のトライゴン》のイベントの前に休息できたことです。
この【スキタイのムスメ】、敵との戦い方も、《トライゴン》を呼び出すために必要な《森の精》を呼び覚ます方法も、ほとんどノーヒントで解き明かしていかないといけない、かなり鬼畜なゲームです。いちおー暗示程度のヒントはあるのですが、それはあくまでも暗示であって、とにかく手当りしだい画面にタッチしてなんらかの反応を引き出さないことにはクリアのための手がかりにたどりつけないようになっています。
これ、プレーヤーにとっては「ほぼほぼ徒手空拳で物語の舞台であるコーカサスの山中に放置されたようなもの」で、ぶっちゃけ《セッション Ⅰ》《セッション Ⅱ》は、攻略サイトを見ながらでないと進めるのは無理でした。
なので、しょっぱなから攻略サイトに依存しでもしないかぎり、かなり悩むし、行き詰まるし、イライラするし、場合によっては何回もやり直す、ってことになってしまうのです。
私自身、《セッション Ⅰ》では、最初の敵である《三目の怪物》に勝てなくて何回も死に、《不死の亡霊》にもうまく勝てなくて何度もやり直し、もうイヤになっていちばん最初からプレイし直す……というのを、3周ほどしたと思います。
その後の《セッション Ⅱ》でも、《森の精》を呼び覚ますために何をどうしたらいいかよくわからず右往左往しまくったあげくに、《暗月のトライゴン》のイベントの手前ですでにメンタルはヘトヘト。正直、【スキタイのムスメ】をプレイし続けるのにウンザリしかかってました。
さっさとケリをつけるために、《月の洞窟》を使って月齢をコントロールして一気に終わらせて即アンスト……なーんてのもアリだったんですけどね。だけど、ヘトヘトの状態で無理矢理ガンバってクリアして、あーしんどかったー、という記憶だけ残してアンインストールするのって、それもなんだかもったいなくないですか?
だったら、いったんやめたつもりになって放置して、のんびり《暗月》の期間がくるのを待ってみてもいいんじゃないかな、と考えまして、あえてゆっくり終わらせる、という逆張りの方向でいってみることにしました。
結局、10日ほど、意味もなく最初からプレイしなおしてみたり、謎解きもなにもない平和な山道をうろうろして、ときたまでてくる《不死の亡霊》と戦ったり、というムダでしかない時間をすごしてました。というのも、【スキタイのムスメ】のバトルは、最初こそとまどいますが、なれたら楽勝。ぜんぜん難しくないんです。また、そもそも「経験値」というものが設定されてないゲームなので、山中をうろうろしようが戦おうが、あるいはそのまま放置して過ごそうが、主人公の能力の増減はなし。だから、この期間は武者修行にもなりませんでした www
だけど、ストーリーの進行を気にかけることなく、ノーストレスでのーんびりすごしたことで疲れがとれ、《暗月のトライゴン》のイベントをむかえるころには、心身ともにすっかりリフレッシュ!
おかげで、謎解きに辛抱強く取り組んだり、そのために細かいところをじっくり観察できるだけの元気が回復していました。なので、このイベントは攻略サイトをほとんど参照することなく終わらせることができ、我ながらおどろいています。
また同時に感受性もリフレッシュしていたので、イベントのビジュアルや効果音の美しさを、まるではじめて【スキタイのムスメ】をプレイするかのような新鮮さで楽しむことができたのには感動しました。
月待ちの期間は、一見ムダでしかなかったのですが、このゲームをより深く楽しむためには必要で有意義な遠回りだった、といまでは思っています。
② 慣れから生まれる、深い味わい
私は器用な方ではないので、どんなゲームでも、いちどですぐ慣れる、ということはないです。途中でモヤモヤイライラしてきて、データを消してまた最初からやり直すことをくりかえす、というのがデフォルトの行動パターンです。
この【スキタイのムスメ】でもやはりモヤモヤイライラが発生し、進めてはやり直し、進めてはやり直し、というのをすくなくとも3回はしてます……まぁ、それがゆえにヘトヘトになっちゃった、というのはありますけど。
だけど、バトルにしろ、《森の精》を呼び覚ますのにしろ、同じことを何回かくりかえしたので、ほぼほぼ手順を覚えてしまいました。で、【スキタイのムスメ】って、バトルもイベントも手順を覚えてタイミングさえあわせたら簡単にクリアできるものばかりなのですね。おかげで、スムーズにストーリーを進行させられるようになりました。
ただ、あまりにもさらさらと進められるようになっちゃったものだから、なんかつまんねー、さっさとクリアして別のゲームを入れたほうがマシじゃね?……なんてことがアタマをよぎったりしはじめました。
だけど……だけどなんです。慣れて余裕ができたおかげで、プレイの背後の音や映像に注意がむけられるようになってきました。BGM なんかもくりかえし聞けば自然に覚えてしまいますよね。そのノリで、音や映像といったストーリー以外の部分がいかに作り込まれているか、というところが自然に目に入るようになり、かつ、味わえるようになってきました。
てなわけで、《暗月》を待つあいだ、とくにすることもなく山道や夢の世界をうろうろしているだけで、私には十分に楽しかったです。だって、何回うろうろしても、ゲーム内の音を聞き、画像を眺めるだけで、音がすげー、絵がすげー、って驚くことができるわけですから。こんなたとえをするとほめ過ぎといわれるかもしれませんが、名画や名曲が飽きられることがない、っていうのと通じるんじゃないかな、って思ってます。
それから、夢の中の世界はの空の色は、《明月》から《暗月》にかけての期間は赤みをおびた明るい紫色なんだけど、《暗月》にはいったとたん、薄暗い藍紫に変わります。そのとき、うわっ!空の色が激変……!、と心の底から驚くことができたのは、何日も何日も、ほの明るい赤紫の空を見続けてきたからじゃないかと思っています。だって、よきマンネリが前提としてあるからこそ、変化の刺激が驚きとなるわけですから。
これについては、マジでいい経験させてもらいました。
③ 「プレイすることが何もない」は贅沢
ゲームであるにもかかわらず、なにもプレイせずただゲーム内の世界をうろうろするだけの期間……って、そんなんゲームじゃないやんけ!
って、最初はおもってました。
だけど、実際に無為にうろうろしてみて、なんて贅沢だったんだろう、といまでは思います。
というのも、【スキタイのムスメ】の舞台は山岳地帯に設定されているらしく、どのシーンも絶景だらけなのです。巍峨たる断崖絶壁、細く垂れる滝、うねる急坂……その絶景ぶりはまるで、ドット絵で描かれた水墨画とでもいうかのようです。
そして山の麓の平地には池や湖があり、さざ波ひとつない水面に水上の風景を克明に映じています。そのほとりを主人公が歩けば、姿が水鏡に映り、中空の月もまた、水中にあります。その水面を境とした上下対称の美しさはマジでアンビリーバボー! ブツブツカクカクとしたドット絵でもこんなにキレイな表現ができるのか、とただただ嘆息するのみです。
【スキタイのムスメ】は、ジャンルとしてはスタイライズド・ゲームに分類されるようですが、まさにそのとおり、と感服するよりほかないです(「スタイライズド・ゲーム」とは、あえてひとことでいうと、独自の様式美を備えたゲーム、というような意味になるそうです)。
で、あとでじわっと気がつきました……コレ、もし、《月の洞窟》を使ってさっさとクリアしてたら、ぜったい見過ごしてたわ、って。
何もすることがない期間だからこそ、ゲーム内の景色の素晴らしさに目がいった。もし、ソッコーでクリアしてたら、この絶景は単なる背景として終わってたんだろうな、って。
BGM が必要以上にうるさくない、というのも【スキタイのムスメ】のいいところで、おかげでまるで、どこでもドアを通り抜けて絶景を見物に行って、自然の空気感を味わって自宅に帰ってくる、みたいな気分でアプリを起動し、ゲーム内をうろうろすることができました。
やることなくてヒマ、どころか、アタマのなかをらっぽにしてゲーム内で風景の美しさに浸ることができる。これは実際に月を待った人だけが知ることができるご褒美だと思います。
④ カウントダウンのワクワクが激増
《トライゴン》関連のイベントが発生する《暗月》または《明月》の日がくるまでの日数は、ゲームのログ的な役割をはたしている《絶世の大書》に、
というふうに表示されています。
ぶっちゃけ、最初は、そんなに何日も待てるかよッ!、って息巻きながら、日々《絶世の大書》をチェックしてました。
このころのホンネを顔文字であらわすなら「┐(´д`)┌ヤレヤレ」でしょうね。製作者の意図にはついていけねーけど、お付き合いさせていただきますかねー ┐(´д`)┌ヤレヤレ ……的な感じです。
そんななげやりチックな気持ちであったにもかかわらず、一日一日、日数が減っていき、ゲーム内で空にかかる月の姿も、既望から半月、さらに有明月、と細っていくのを確認しながら、どことなくワクワクしてたのは否めません。
そして、当日。《絶世の大書》を開いて、ページに《暗月》の2文字のみが記されているのを確認した瞬間、自分でもびっくりするような勢いで、それこそ、ヒャッホーイ!とうっかりさけんでしまいそうなくらいの勢いでよろこびが沸騰しまして……いやもうホントに、たかだかゲームのイベントの発動になんでそこまでよろこべたのか不思議なくらい、ワクワクが最高潮。たとえるなら、お気に入りのアーティストの待ちに待ったライブが今日ついにきた!みたいな感じです。
待つ、ってこんなに楽しかったの!?!?
このひとことにつきます。
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⑤ 結論。「ただ待つ」ことが、ゲームプレイを豊かにする
正直なはなし、【スキタイのムスメ】をインストールしようかどうしようか迷ってたとき、「現実の月の満ち欠けにゲームが影響される」っていうような説明を読んで、うっすらこころひかれながらも、「占いかよッ!」「スピリチュアルかよッ!」って、www でした。
でもね、実際に待ってみてわかりました。占いでもスピリチュアルでもなんでありませんでした。
一般的に、ゲームって、つまりは以下のようなふうに一直線に進行して終わってしまいます。
これを大雑把にたとえるなら、矢が的を打ち砕きながらまっすぐにゴールまで飛んでいくようなもの。謎が解けなかったり、強敵に勝てなかったりと、途中で進行が詰まることはありますが、詰まっている間も、謎について考察したり、主人公を成長させたり、やりこんでプレーヤー自身の技術を鍛えたり、なんなら最終的には攻略サイトをあさったり、ストーリーを前進させるためのプレーヤーの活動が停止しているわけではありません。
だけど【スキタイのムスメ】は、月の形の変化を待たせることによって、ゲーム進行の裏にあるプレーヤーの活動すらも停止させてしまいます。この感覚は、逆に新しい。
たいていのゲームの世界って、人間が積極的、能動的に動けば動くほど新しいステージが開けていくように作られています。だけど、【スキタイのムスメ】はゲームという能動性の世界に、ただ待つだけ、という受動的で消極的な要素を導入しちゃったわけです。新しいステージに至るためには、ただ「待つ」ことだけが必要……って、なんだよそれは!
ところで、放置ゲームはどうなんだ、という反論もあるかとおもいますが、放置しているあいだにコインなり、エネルギーなり、なんらかの資源が蓄積していくわけですから、まったくの無為とはいえない、と私は考えています。
【スキタイのムスメ】は、プレーヤーを「待たせる」ことで、一般的な一直線に進むゲームとはちがう楽しみ方をもたらしている、といっていいのではないでしょうか。たとえば、休息してリフレッシュしたり、単なる背景で終わりがちな画像を細部までじっくり眺めたり、そして、いざ当日、イベント発動をむかえてワクワクが異様に倍増したり!
それとですね、コンピュータゲームの世界って、なんだかんだいって、プレーヤーの意のままになる世界ですよね。だって、どんなに難しいミッションだったとしても、最終的にはクリアできて、やったぜ!(๑•̀ㅂ•́)و✧、っていう快感をプレーヤーに味わってもらわないことには、プレーヤーが離脱しちゃいますから。よほどのことがないかぎり、難易度は難し過ぎず易し過ぎず、いい感じに調整されています。
ところが【スキタイのムスメ】はそんな「プレーヤーが王様」みたいなワールドに、「月齢」という、もう全くプレーヤーの意のままにならない要素をぶちこんじゃった……って。なんですかね、この、絶対に支配できない最高に手強い敵がいるぞ、って感じは。それに、ちょっと哲学的ですらあります。だって、この敵を克服するには、「無為のまま待つ」ということに対するプレーヤーのマインドセットを作り変えるしかないわけですから。
イベントや敵をクリアしてストーリーを前に進めていくのが、縦方向の楽しみ、とすれば、「月を待つ」ことがもたらすもろもろの恩恵は、横方向の楽しみ、と表現できそうです。
【スキタイのムスメ】は「月を待つ」というタイパの悪い仕組みを埋め込むことによって、ゲームをプレイする楽しみに横幅をもたせた、換言すると、課題をクリアすることからかけはなれたことも享受することができる、豊かな楽しみ方ができるゲームになっている、というのが私の結論です。
実際のところ、【スキタイのムスメ】は《月の洞窟》を使えば現実の月の満ち欠けを待つことなく数時間で終わらせられるあっけないゲームです。どんなに映像が美しく、音が凝っていても、タイパよく縦方向に楽しんむだけでは、アプリストアのなかでも、プレーヤーの記憶のなかでも、他のゲームに埋もれてしまう可能性が高い。だけど「待つしかない」ことが、このゲームに揺るぎない個性をもたらしています。
めんどくさいしダルいし、なんていわずに、ためしに月の満ち欠けを待ちながらプレイしてみませんか?
ちなみに私は、こんどは《明月のトライゴン》のイベント発動のために、《明月》待ちをしています。
《暗月》の期間中にゲームを開始すると《月の洞窟》の鍵が手に入らないらしくって……ためしに最初からプレイしなおしてみたらホントに手に入りませんでした(^_^;)。ということで、待つしかない状況です
……え、《暗月》の期間が終わったいまやり直せば、鍵が手に入るだろ、って?
まぁ、それもたしかにそうなんですけど。せっかくなので、鍵無しで最後までいってみたいと思います。
もしまたなにか面白い発見があったら、レポートします。
これ↓は前回の記事。
ネタバレしないていどに、お役立ち情報をメモってます。
攻略の参考にどうぞ。
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