連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その65
65. グッパイ大野!③(ファイナル)
次の日。
夕刊の時間。
みんながざわついていた。
みんなが肩をくっ付けて話し込んでいる。
「居なくなったら、清々(せいせい)するね。」
「ここ辞めてどこ行くんだろうね。」
「九州帰るんじゃない?」
「ホームレスが似合うんじゃない?」
「ヤクザになるのかもよ?」
辞める?
九州?
清々する?
・・・・・・
大野しか居ないじゃないか!
辞めるのか大野!
だから昨日私を飲みに連れて行ったのか!
それならそうと言ってくれたらいいじゃないか!
私は動揺した。
でも誰にも話せない。
優子さんなら大丈夫だろうか。
ちょうど一人で食堂にいた優子さんに聞いてみた。
「大野が辞めるって本当ですか?」
「うん。そうなの。ずっと前から辞めるって言ってたんだけど、
今日(部屋)出て行くんだって。あいかわらず大迷惑なやつ。」
「今日!こんな中途半端な日に?」
「まったくよね!でも本当に居なくなるんだ・・・ちょっと寂しいかな。」
「うっ!」
な!泣きそうだ。涙腺がゆるい私。
「まだ上で荷造りしてるみたいだよ。」
私は天井を見上げた。
あの爆音はもう聞けないのか。
私は急いで階段を登って大野の部屋に向かった。
半分開いていたドアから大野が見えた。
沢井先輩(カップ麺専科)も居た。
手伝っているようだ。
ドアを開けたら二人が私を見た。
「おー。真田丸か。」
部屋には、ほとんど何もなかった。
楽器やアンプは無くなっていた。
古めかしい黒のボストンバッグと布団とハンガーラックがあるだけだ。
西陽が差して剥き出しの畳がオレンジ色に見えた。
「世話んなったな。」
「せ、先輩、、、急にそんな・・・」
「いや、急じゃない。今日あいつの誕生日なんだ。」
「彼女さん?」
「おう。んでこれから一緒に住むことにした。」
「・・・・」
「もっと稼がなくちゃなんないからな。こことは、おさらばだ。」
「仕事決まってるんですか?」
「おい、昨日行ったじゃないか。」
「えっ?あそこで働くんですか?」
沢井先輩がハンガーラックを
自分の部屋に運ぼうとして私にぶつかった。
「あー!ごめんごめん。」
大野が続けた。
「そうそう。だから一回見といてほしかったんだ。」
「そういうことかぁ〜」
「彼女が出来たら飲みに来いよ。バーテンの俺がおごってやるからな!」
「うっ!」
また泣きそうになる私。
「もう夕刊だろ?早く行けよ。」
カーテンの無くなった窓から
差し込む陽射しが大野を包む。
ボストンバッグを肩に掛けた大野が
そのまま光の中に消えてしまいそうだった。
そして本当に居なくなる。
私はお礼も言えずに階段に向かった。
「体に気を、、、つけてくださ、、い・・・」
なんとか涙声にならずに言った後、
すぐに階段を降りてしまった私。
大野なら分かってくれるだろう。
なんてったってロックな男だ。
ロックはエモーショナルなんだ。
本当にロックな男だったな大野。
グッバイ大野!
夕刊の配達から帰ってきたらもう居ないんだな。
みんな清々するんだろうな。
わたしがもし一生彼女が出来なければ
もう二度と大野と会えないんだな。
その可能性は充分にあった!
〜つづく〜
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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。
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