連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その77
77. 特別な日
次の日。
うっかり寝てしまった。
起きたら10時だった。
寝過ごしてしまった連絡をしなければ。
公衆電話まで行って連絡するより
もうコンビニまで行ってしまったほうが早いのでは?
そうしよう。
急いでコンビニに行った。
10時30分。
「おー!来たか!」
「すいません!うっかり寝てしまって。」
「とにかく早くこの弁当を!」
床に両膝をつけてお弁当を出していた店長と代わった。
幕の内弁当の上に幕の内弁当を乗せて、
ハンバーク弁当の上にハンバーグ弁当を乗せた。
だんだんと、みんな(弁当たち)の顔がハッキリとしてきた。
さすが店長だ。もうバッカンがあと残りわずかだ。
今日は余裕なんじゃないか?楽勝だな。
昨日みたいにもみくちゃにはされないだろう。
ん?
なんか野球のユニホームを着たおじさんが
カゴにお弁当を入れ始めた。
ひとつ、ふたつ、みっつ、いつつ、
2個いっぺんに取り始めたぞ!
ななつ、ここのつ、
どんだけ食べるんだ?
チーム分全員の弁当を買う気だな?
でも9個を超えたぞ。ベンチの人の分もか!
14個のお弁当をカゴに入れてレジに向かう監督。
監督のもとに女の子が来た。マネージャーだろうか。
「おい、お茶は買ったか?」
「あ、はい!買いました!」
「おしぼりは?」
私はふと思う。
急に野球をすることが決まったのだろうか。
いや予定通りなのだろう。
だとしたら、
このコンビニで人数分のお弁当とお茶を買うことも
予定に入っていたということだ。
いやざっくりと『お昼は近くのコンビニでお弁当を買う』
くらいの予定だったのだろう。
見よ!客人よ!
あの店長のやつれた顔を!
あの顔を前日に下見していたとしたら
このコンビニでお弁当を買おうとしただろうか?
見るがいい!このレジの行列を!
支払いを済ませて電子レンジで温め終えた頃にはもう
ゲーム開始のホイッスルが鳴ることだろう。
【チンッ】が試合開始の合図だ!
しかし一般と呼ばれる人々の生活が全く分からない私。
何の疑問も持たずに12時に昼食をとりはじめる人々。
そういう仕組みの社会。
社会に憂いを感じた社会不適格者の私。
バッカンを片付けたらちょうど12時。
勝った。
これでやっとレジに入れる!
店長のところに戻った。
「あたためますか?あ、さなだくんか。今日は一人少ないから、まだパンが出せてないんだ。」
「パ、パンですか?」
「そう。あっちの通路に置いてあるんだ。」
パンのバッカンが山積みでタワーになったまま。
棚には人気のないパンしか残っていなかった。
蒸しパン。食パン。
「パン頼むよ。温めますか?」
パンのバッカンに近づいた。
バッカンをのぞいているOLさんがいた。
「あのぅ、ここからパン取ってもらってもいいですかぁ?」
OLさんが振り向いた。
(メロンパンだ!)私は心で心から叫んだ。
そう!私の目の前には白いブラウスの胸元からメロンパンが2つはちきれんばかりに現れたのだ!
「ど、どのパンですか?」
「えーっと、イチゴの・・・あれ、なんていうんだろう?」
「いちご、いちご、メロン、メロン、」
「えっ?イチゴですぅ。」
「あ、すいません。いちご、いちご、と」
バッカンをひとつずつ横に置きなおして床に置き、
イチゴのパンっぽいのを探す私たち。
こんな戦場ならいつまでも居たい。
私が床に置いたバッカンのパンを別の人がのぞく。
私はもうそのバッカンの上にはバッカンを重ねられなくなったので、
逆側の隣にバッカンを置こうとした。
イチゴのパンを探しているメロンパンのOLさんが私の後ろに移動してきた。
「いちごのパン、ありますかぁ?」
「ないっすねー。いちごぉ。」
「えー。いつもあるんだけどなぁー。ここにぃ。」
私の真後ろからどうやらバッカンを見ているのか棚を見ているのか、
吐息が聞こえる。
すごく近い。
私の右後ろのもう首のところくらいに顔があるようだ。
鼻から吸った息の音まで聞こえる。
通路は狭かった。
さらに別の人が通ってきた。
「すいませーん。ちょっと、通っていいですかー。」
私たちがよける間も無く強引に後ろを通る人。
その瞬間、メロンパンが背中に当たった。
もにゅーん。、もにゅーん。
2つ同時だった。
メロンパンは硬めの皮が美味いはずだが、
このメロンパンは非常に柔らかかった。
メロンパンが2つ。
ずっと、こうしていたかった。
もう妄想が止まらない。
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「いちごのパン、見つかりますかぁ?」
「そうだ!今から一緒にいちご🍓を摘みに行きましょう!」
「イチゴ狩りですかぁ?いいですよー♪その後何狩りますぅ?私ですかぁ?」
「君のメロンパンの上にイチゴをのせちゃうぞー!」
「きゃ〜!つめたぁ〜い!」
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「あっ!あった!これですぅこれぇ!」
円を半分に切った形のパンで
【いちごスペシャル】と書いてあった。
「あー!これかー!知ってます!食べたことあります!」
「ありがとうぉ〜!店員さん!」
残念ながら、ほっぺにキスは無かったが、
私にはメロンスペシャルと呼ぶべき特別な日となった。
〜つづく〜
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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。
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