それはたすけられてきたモノ#言葉を宿したモノたち
君にとってお気に入りの僕は、どこに行くにも一緒だった。
ベッドの上、テーブルの上、トイレに行くにも、ときにはお風呂だって一緒に入った。
いつだって僕のことをよんでくれた。公園に行くときも、君は僕を離さなかった。
***
僕は昨日、たくさんの仲間達と一緒に、お店に行った。
君のお母さんが部屋を片付けていたときに、一緒に箱に入れてしまったみたい。
君は箱の中に入っている僕のことを見て、少し寂しそうにしてくれたけど、でも僕のことなんかすっかり忘れちゃったような顔つきだ。
僕のことをもう必要としていない。
君はもう立派な小学生になったのだから。
さみしいな、いつかまた、思い出してくれると良いな。
ピカピカの新品だった僕は、君に何度も触れ、長い時間を過ごした。居眠りしたときはよだれを垂らされたときもあった。
君はあの時、テレビよりも、つみきよりも、僕のことが好きだった。朝起きてからも、夜眠る前も、僕のことをいつもよんだ。
僕は今、整理整頓されたスペースに、見たことのない仲間たちと背中を並べながら、店内を眺めている。
一人の男の子が、僕をじっと見つめている。「おかあさん、あれとって」と言っている。
お母さんが僕を手にとって、男の子に渡してくれた。
懐かしい。この年代のこどもの手は、小さいけれど、いつも温かくて、湿っている。
男の子は僕のことを夢中になって見ている。好奇心に溢れたキラキラした瞳が、いつかの君と重なる。
見た目はボロボロだけど、中身には自信がある。
かつて君が夢中で僕のことをよんだように。
***
さて、この物語の「僕」は何でしょう?
#言葉を宿したモノたち の企画に参加中。
身の回りにあるモノをヒトに見立てて、そのモノから世界がどう見えているかを正体を明かさずに書くこと。
おもしろい企画だったので、突発的に参加しました。
小さい頃夢中になったせいか、今もずっと、よんでいる。
娘のオムツ代とバナナ代にさせていただきます。