vol.4 Notation:02
今回もまた東京にある老舗だが、こちらのお店はもともとは関西の料亭からの流れを汲む関西風寄りになる。関西風寄りと表現したのは典型的な関西風とはまた異なる独自のすき焼きを考案されているからである。
食材
このお店は季節によって食材を変えず、年中常にこの食材構成である。旬の食材を入れるほうが良さそうに思えてしまうが、食材を固定することで食材の特徴を掴みやすく常にクオリティを一定に保てるというメリットも大きい。また玉ねぎを使うのは関西風の特徴ともいえる。
①牛肉(宮崎牛リブロース) 10枚/2人
②白ネギ 6本/2人
③玉ねぎ 4枚/2人
④豆腐 2個/2人
⑤丁字麩 2個/2人
⑥白滝 2人前
⑦春菊 2人前
フェーズ構成
フェーズは8段階構成と小刻み。全体の時間は他店ともそれほど変わらないにも関わらず、細かく配膳を繰り返す比較的難易度の高い構成といえる。各フェーズでの配膳する食材の種類は関西風らしく少なくまとめられている。
後半に白滝を持ってくることはオーソドックスであるが、最後に春菊を持ってくるのはこちらのお店独自の手法である。
Phase1:牛肉+白ネギ
Phase2:牛肉
Phase3:豆腐+玉ねぎ
Phase4:牛肉+丁子麩
Phase5:牛肉+白ネギ+玉ねぎ
Phase6:牛肉
Phase7:白滝
Phase8:春菊
景色
フェーズごとにがらりと変わる景色が美しい。はじめから最後半まで牛肉の紅を引きつつ弾けるような差し色の使い方、最後に白く雪景色からの春の緑への移ろいは流石の構成といえよう。
分析
着眼点は前回の関東風と同じポイントでゲスト間の配膳タイミングである。こちらは全てのフェーズにおいてほぼ同時に配膳されている。食事客は互いに気を使うことなく配膳されたタイミングで食することができる点ではかなりのおもてなしの技を駆使している。
この流れを度々味わうにつれて気づかされるのは、すき焼きのメインは肉にあらず添え物にあるということだ。どのフェーズも肉と汁を吸収しやすい食材という組み合わせになっており、肉汁と割り下が混ざり合ったソースを様々な食材に吸わせることで料理として完成させている。これこそが風姿花伝の「秘すれば花なり」に通ずる日本古来からの様式美といえるだろう。
食後感
お肉はひとり5枚と多いにも関わらず最後まで胃がもたれることなく進行する。これはテンポの良さもさることながら最後の白滝からの春菊という段取りが箸休め的な効果を生んでいるのかもしれない。
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