「演じる」ってなんだろう
所属している演劇サークルの先輩が演技について呟いていて触発されたので軽くメモ程度に僕の演じることに関する思考を書き留めておきます。思考を整理・記録するための場所でもあるので言葉遣いがバラバラなところもありますが、あたたかい心でそのような箇所には目をつぶっていただければ幸いです。
【舞台に立って演技するときに意識したいな、意識すべきだなって思っている言葉】
その1 「役≠役者≠自分」
上に書いた先輩が言っていた言葉。「役者は役そのものではない」し「役は自分そのものではない」。役者が役そのものになる(完全に役として生きる)というのはそもそも不可能。「役者」という時点で「役を演じることが仕事」なわけである。役はあくまでも役。また、役は自分ではない。自分の経験を演技に活かそうとすることは悪くないことだろうし、つまるところ演技は自分の中にある引き出しからしか出せないからある程度は自分の経験を活かすことになる。がしかし自分の中にある経験だけで疑似的に演じようとすると、感情表現に身体表現が追い付かなかったり、台詞に中身がなくなってしまったり(「ヘチマをキュウリにしていこうね」ととある演出家から言われた)して、役がとっている行動としてリアリティがなくなったりちぐはぐになったりしてしまう。「この人(=役)はどういう思考回路でこういう発言・行動をするに至ったのだろう」「この人(=役)はここ(=作品で描かれている時間軸)までどういう人・環境に囲まれてどういう人生を送ってきたのだろう」という感じで役について思考を巡らすことで、ヘチマをキュウリにしていけるのではないだろうか。
その2 「pretendではなくact」
とあるワークショップに参加した時に聞いた言葉。演技とはpretendする(=役のフリをする)のではなくactする(=その役として行動する)ことである、という言葉。この言葉を聞いたことがきっかけで僕の演技に対する考え方は30°くらい変わりました。上の「その1」にも書いたように役には一人一人生きてきた人生があって、その積み重ねてきた人生が見えてこそ発言・行動に説得力が生まれる。ただ単に役の感情の動きを考えて演じるのではなくその人(=一人の人間)の人生を踏まえて「act=行動」することが大事だと思う。
その3 「アクションではなくリアクション」
昨年年末に参加した公演の稽古中に演出家が口にしていた言葉。特に会話劇の場合は相手の反応次第で演じ方が変わってくるゆえに、相手の反応を無視して自分の演技を押し通そうとする(=アクションする)とうまく成り立たなくなってしまう。相手の反応をきちんと見て、受け止めて返す(=リアクションする)ことで自然な会話の流れを生み出せる。日常会話に置き換えて考えればわかりやすいだろう。一人芝居を除けば、演技というのは対する相手ありきのものである(一人芝居の場合はその「対する相手」は観客ということになるだろうがそれはまた少し話が違ってくるのでここでは割愛する)。相手が自分の演技に対してどう反応し、自分はその反応に対してどう反応するのか。演劇というのは、(エチュード等の特別な事例を除き)稽古を重ねてから観客の前で披露するものである。何回稽古をしたとしても、舞台上で演技するときは毎回「1回目」として演じる必要がある。演じている状況に慣れないで、毎回しっかり相手の演技に反応(リアクション)することで自然な流れを生み出せると思う。相手の台詞のどの言葉に1番強く心が動いたのか、毎回意識することが大切だと思う。
【なぜ演じることに楽しさを見出しているのか】
なぜ僕は観客としてだけでなく役者としても「演劇って楽しい」と感じるのだろう。理由の一つとしてぱっと思いつくものとしては、僕が出たがりな人間だからということがある。そう、僕は出たがりなのである。正直なところを言うと、「舞台上で自分以外の人を演じる」ということ自体に感じる楽しさ・喜びより、うまくできたときや舞台の終演後に「すごかったよ」「よかったよ」と褒めてもらうことに快感を見出しているのだと思う。もちろん役について考えて最適な演技をすることに努めることが楽しいから「役者としても演劇が楽しい」と感じているのだろうが、僕が役者として舞台に立つことで感じている喜びを構成する要素として褒められることは大きな一つである。
「演じる」こと自体をなぜ楽しく感じているのか、はっきりと言語化することは難しいが多分役者をせずに日常生活を送っていたとしたら絶対しないような服装・メイクに身を包み作品の世界観に没頭して自分ではない一人の人間として生きる姿を見せることに楽しさを感じているからだと思う。大学に入学してから実際に舞台上で役者として演じた公演は、どちらも今の日本とは離れた世界観の作品であった。そのことも作用している気がするが、今は前まで以上に「自分と違う役であれば違う役であるほど面白さを感じる」ようになった(その2つの作品に参加するまでは自分と共通点が多い役の方がやりやすい・楽しいと感じていた)。参加したのがその2つの作品でよかったと思えている、幸せだ。
【これから】
今は、ただただコロナがいち早く収まってまたなんの気兼ねもなく対面活動ができるようになってほしい。自粛期間中にリモート声劇にも参加したが、一度対面での舞台を経験してしまうと「劇場」という場所がいかに素敵な場所なのか、身体性を伴う演技がいかに楽しくてやりがいのあるものなのか、色々気づいてしまい、もうオンラインでの演劇・稽古には戻れない身体になってしまった。早く「密」になれる情勢になってほしい。