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サンタさんになりたい!
pixivのブックサンタ2023企画の参加作品です。
サンタさんになりたい男の子のお話。
サンタさんになりたい!
サンタになりたい男の子は、お姉さんに聞いてみた。
「ぼく、サンタさんになりたいんだ。どうすればなれるかな?」
「まずは地図を読めなくちゃいけないんじゃない? どこへ行っても迷わないように」
「そっか。よし、頑張るぞ」
納得した男の子は、一生懸命、地図を覚えた。
地図を勉強していると、お兄さんに声をかけられた。
「何をしているんだい?」
「ぼくサンタさんになりたいんだ。だから地図がわかるようにならないと」
「なるほどな。だがサンタさんになるなら地図だけじゃダメだ。トナカイと心を通わせられなきゃいけないからな」
「そっか。トナカイだね」
納得した男の子は、地図を勉強しながら、トナカイふれあい広場に行くようになった。
毎日のようにトナカイふれあい広場に行っていると、そこのお姉さんに声をかけられた。
「トナカイ好きなんだね」
「うん。ぼくサンタさんになりたいから、トナカイのこともよく知ってないといけないんだ」
「そうなのね。でもサンタさん用のトナカイは別だから、サンタさん用トナカイのことも知ってないといけないわね」
「そうなんだ。知らなかった」
「サンタさん用のトナカイを知ってるお婆さんがいるから、そこにいくといいわ」
男の子はお礼を言って、そのお婆さんに会いにいった。
「サンタ用のトナカイだからといって、構えることはないさ。尊重と敬意をもって接すればいい」
「尊重と敬意? ぼくにはちょっと難しいな」
「心を持って接すればいいということさ」
「そうなんだね。わかった。ありがとう」
「だけどサンタになりたいなら、サンタの袋を用意しないとね。プレゼントを入れる袋がないと、仕事が出来ないからね」
「サンタの袋はどうすればいいの?」
「あれは自分で作るんだよ。自分で縫ってつくるのさ」
「そうなの? 知らなかった」
納得した男の子は、お裁縫を学んだ。
男の子が針と糸と布で袋を作っていると、近所のおじさんに理由を聞かれた。
「ぼくはサンタさんになりたいから、袋を自分で作ってるんだ」
「なるほどなあ。じゃがそれなら天気のことも知ってないとダメなんじゃないか? いつも晴れているとは限らないし、風が強い時もあるじゃろう」
「そっか。そっちもやらないとだね」
納得した男の子は、天気の勉強も始めた。
天気の勉強をしていると、近所の店員さんに理由を聞かれた。
「ぼくはサンタさんになりたいから、今は天気の勉強もしているんだよ」
「そうなのね。でもそれなら、そりの操縦も知らなければいけないのではないかしら」
「そっかぁ。サンタさんはそりに乗ってるもんね」
納得した男の子は、そりの操縦を教えてくれるところへ行った。
そりの操縦を習っていると、教えてくれる先生に理由を聞かれた。
「ぼくはサンタさんになりたいから、そりの操縦ができないといけないんだ」
「そうか。だがそれなら、サンタ用のそりを作ってくれる人をみつけなきゃならないな。サンタ用のそりは普通のそりじゃないからな」
「そうなんだ。知らなかった。どこを探せばいいかな」
「知り合いに聞いてみるよ」
「ありがとう」
納得した男の子は、サンタ用のそりを作ってくれるところを探した。やがて操縦の先生から連絡が来て、サンタ用のそりを作っている人を教えてもらえた。
教えてもらったそり屋さんに行くと、サンタ用のそりの材料が必要だと言われた。
「サンタ用のそりの木材は、専門のきこりに切ってきてもらわなきゃならんのだ。あとはサンタ用のペンキも必要だ」
「サンタ用のペンキも必要なの?」
「ああ。トナカイとの相性も大事だし、空を飛ぶから風にも強くなきゃならんからな」
「そっか。たくさん必要なんだね」
「そうさ。何事も出来上がってしまえば単純なひとつのものだが、それが出来るまでにはいろんなものが繋がって関わり合っているもんだよ」
納得した男の子は、次は何をすればいいかを聞いてみた。
「あとは待つことだな」
「どれくらい待てばいいの?」
「そりが出来るまでさ。あとはお前さんがサンタの技術を習得するまでだな」
「そっか。わかった。ぼく頑張るね」
男の子は地図が読めるようになったし、トナカイとも心を通わせられるようになった。袋も作れるようになったし、天気のこともわかるようになった。操縦も今ではお手のもの。あとは待つだけ。待つだけなのだが。
「そりってどれくらいで出来るんだろう」
何時まで待っても出来てこない。何度もそり屋さんを訪れるのだが、なかなか仕上がらないようだ。
「頑張れることがなくなっちゃった。次は何をしたらいいのかわからないよ」
落ち込んでいる姿を見て、近所のおばさんが声をかけてきた。
「クリスマスグッズ売り場の妖精さんに話を聞いてみたら? 何かわかるかもしれないわ」
男の子は聞きに行った。
「それでぼく、サンタさんになりたくて頑張っているんだけど、なかなかそりが出来てこないし、どうしたらいいかわからないんだ」
男の子は妖精さんに今までのことを話した。勉強したこと、習得したこと、たくさんの繋がりを知ったこと。相手は静かに聞いてくれた。
「そうなんだね。君はクリスマスを楽しんでいるかい?」
「サンタさんになったら楽しめるよ」
「サンタさんになれないとクリスマスを楽しめないのなら、それはサンタさんじゃないんじゃないのかな」
「どういうこと?」
「サンタさんは、クリスマスを楽しむためにサンタになったんじゃなくて、クリスマスを楽しんでいるから、サンタさんになったんだよ」
男の子は理解出来なくて、難しい顔をした。
「君はサンタさんになることにこだわり過ぎて、サンタさんとしての心構えになってないのかもしれないよ。だからそりが出来てこないのかもしれないね」
「え、違うよ。そりが出来ないからサンタさんになれないんだよ」
「そりが仕上がるのに必要なものは、最後はサンタとしての心なんだよ。君はサンタになったらサンタとして生きようと思ってるみたいだけど、サンタとして生きるから必要なものが揃ってくるんだ」
男の子はまだ難しい顔のままだった。
「うーん、じゃあぼくはどうしたらいいの?」
「サンタさんになるための勉強は頑張ってるんだろう?」
「うん。地図も読めるし、トナカイとしゃべれるし、袋もあるし、そりの操縦も出来るし、天気もわかるよ」
「じゃあクリスマスを楽しまなくちゃ」
「サンタさんになれるか不安で楽しめないよ」
「君はどうしてサンタさんになりたいの?」
「プレゼントをみんなにあげたいんだ」
「どうしてあげたいんだい?」
「ぼくはプレゼントをもらって嬉しかったから、みんなにも喜んでもらいたいんだ」
「じゃあそのプレゼントはどうやって用意するんだい?」
男の子はびっくりした。
「え? サンタになったら配るためのプレゼントが用意されてるんじゃないの?」
「まあ、そうとも言えるし、違うとも言える。本当にサンタとして在れたならプレゼントは作れるけど、そうじゃないならプレゼントは作れない」
「どういうこと?」
「つまりね、プレゼントはサンタが自分で作り出すんだ」
「ええ!? どうやって作るの?」
「自分自身の喜びさ。サンタはクリスマスが楽しいから、みんなにもその楽しさを分かち合いたくて、プレゼントを贈るんだ。みんなが欲しがっているものをプレゼントすることで、喜びを共有したいんだ。だから自分が楽しんでいないと、プレゼントは作れない」
「じゃあ今のぼくじゃ、サンタさんになれないってこと?」
「そうだね。だからそりも出来てこない。君自身が楽しんでいないなら、そりが出来上がるのに必要な最大の部品がないからね」
男の子はようやくわかった気がした。
「そうだったんだ。じゃあ今までぼくが勉強したことは無駄だったってこと?」
「そうじゃないさ。そりは出来ても地図が読めなきゃ行きたいところに辿り着けないし、天気がわからなきゃ風が強いときに移動できなくて足止めを食ってしまう。トナカイの扱いを知っていないとそもそも進んでくれないし、仕事用の袋を外注してしまったら、自分と相性が合わない時に全部プレゼントが飛び出して、届けるべきところに届けられなくなってしまう」
「そんなにいろいろなことがあるんだね」
「そうだよ。歴代のサンタもいろいろ大変だったんだ。楽しむ心は大事だけど、それ以外もやっぱり大事なんだよ」
男の子は嬉しくなった。
「そっか。じゃあぼくも、あとは本当にクリスマスを楽しむだけなんだね」
「そうだよ」
男の子は納得して、家族のいる家に帰った。
「おかえりなさい」
家にはたくさんの仲間たちが出迎えてくれた。みんな男の子の家族たちだ。
「ぼくサンタさんの勉強は続けるけど、これからはそれ以外の時もっといっぱい遊ぶことにしたよ」
それがいいわ、とお姉さんは言った。とても名案だ、とお兄さんは言った。じゃあぼくたちとも遊ぼうよ、と幼い弟たちが言った。
男の子はたくさん遊んだ。今はまだサンタではなくとも、プレゼントはあげられなくても、自分がもらうばかりでも、クリスマスは楽しめた。自分がサンタになったら、どんなものをプレゼントしようか、どんなものを作ろうかと考えて、楽しみ方も種類が増えた。
やがて、男の子のもとにそりが届いた。こうしてまた新たなサンタが誕生した。